ウクライナ情勢を巡り、米中の間で新たな問題が生じている。ホワイトハウス内部では最近、中国がウクライナ戦争で劣勢に立つロシアに対して殺傷能力のある武器を供与しているではないかとの指摘が出ているのだ。既にサリバン大統領補佐官やブリンケン国務長官もこれについて言及し、中国が殺傷兵器の提供を検討しているとの情報がある、事実となれば大きな過ちだなど懸念の声が出ている。
当然ながら、中国政府はこれについて真っ向から反論しているが、これについては別途検証が必要である。
まず、武器供与が考えにくいという点だが、仮に武器供与が事実となれば、中国の国際的なイメージ悪化は避けられない。習政権は経済や雇用など国内に大きな課題を抱え、国民の共産党統治への不満が強まっており、今後安定した経済成長がノルマとなる。しかし、欧米だけでなくグローバルサウスを含んだ諸外国との関係が悪化すれば、国内経済が停滞することは避けられず、武器供与は結果として習政権の首を絞めることになる。鈍化する経済成長率に再びエンジンをかけるためには、諸外国との安定した関係が必要となる。
また、習政権が掲げる目標からすれば、ウクライナ戦争に絡むメリットは少ない。習国家主席は頻繁に台湾独立を阻止し、軍の近代化、海洋強国の実現、米国との戦略的競争での勝利などを掲げており、その基軸・重心は中国の東方にある。如何に中国の東方で影響力を確保・拡大するかが究極的な目標であるので、正直なところウクライナでの遠方戦争に関与しなくないというのが本音だろう。
仮に、ウクライナ戦争でロシアへの武器供与を続ければ、その分インド太平洋に割ける時間や労力が少なくなる。中国にとってロシアは価値観を同じくする友好国とは言えない。確かに、対米という点では共闘する政治的メリットがあるが、軍事同盟を組むほど利害が一致するわけではなく、ウクライナ戦争でロシアへ武器を渡して助けることはどこまで意義があるかも分からない。
しかし、事実関係は依然として不明で、仮に事実となれば、米中関係の悪化は避けられない。ここでポイントとなるのは、中国によるロシアへの武器供与というものは、最近の気球や先端半導体などとは比較にならないレベルで米中関係を悪化させるファクターになり得ることだ。バイデン政権は人権や自由、民主主義という価値観を重視する。よって、ウクライナの自由や人権を踏みにじる行動を中国が率先して取っていたとなれば、米国の中国への不信感はまたさらに強まることになる。
ロイター通信は1日、米政府高官や複数の情報筋の話として、ウクライナでの戦争で中国がロシアに軍事支援を行った場合、バイデン政権が新たな対中制裁を科す可能性について同盟国に打診したと報じた。しかし、ここで我々が懸念すべきは、バイデン政権が中国に対して制裁を強化すると打診しただけでなく、同盟国や友好国にも同調するよう呼び掛けるかどうかである。今後、この問題で火花が散り、バイデン政権が日本にも対中圧力を率先して強めるよう要請してくれば、経済で中国依存が強い日本にとって大きな外交課題となろう。