行き場を失った犬や猫を保健所から預かり、里親を探す「一時預かりボランティア」。この活動を続けているtamtam(タムタム)さん。
公益財団法人の動物保護団体に勤務した後、生活のかたわらで、「一時預かりボランティア」の活動をはじめ、2018年から自身の経験を通した漫画をインスタグラムに投稿。出会った保護犬とのエピソードや、彼らと一緒に暮らした10年以上にもおよぶ日々の体験に多くの人が共感。
昨年秋、初の著書『たまさんちのホゴイヌ』tamtam・著(世界文化社)を刊行しました。ちなみに「たまさん」とは普段の愛称で、こう呼んでくれる人がいっぱいいるため、このタイトルになったとのことです。
肩肘張らずに保護犬を知ることができる一冊
「ある日、中学校で授業をさせてもらう機会がありました。子どもたちは一生懸命に私の話を聞いていました。<中略>『保護』や『愛護』なんて聞くと、少し暗いイメージを持っている方がほとんどかもしれません。でも、知ってみると実は楽しいこともたくさんあったりするのです。この本には私の10年以上の経験と思いを詰め込みました。まずは知ること! そこから始めませんか?」
同書はコミックのコマ割りで、かわいい絵と一緒にこんなメッセージが綴られています。著者がどんな思いで「一時預かりボランティア」の活動をはじめたか、そして、どんな思いで保護犬、保護猫に接しているかをしっかり読者に伝えています。
その上で始まるのが、7頭の保護犬との思い出を描いたコミック。冒頭同様の楽しく、かわいい絵によって読ませるものですが、どの思い出も描写がシンプルでとてもわかりやすく、著者が過ごした保護犬たちとの生活、そして、そのときどきで浮かぶ思いを身近に感じることができます。
「保護犬たちとの思い出」で感じた著者の素直な思いをまとめていることで、心地良い読後感を生み、結果的に多くの人が肩肘張らずに「保護犬を知るきっかけ」になるであろうコミックだと思いました。
見なきゃいけないのは過去じゃない。未来は切り開ける
本書にはこんなエピソードが収録されています。
著者が預かっていた保護犬・ボスは、元飼い主に叩かれていたのか、著者がなでようとすると、自分の身をかばうように身をかがめて怯えます。著者はその行動を見て「手を軽く上げただけで、ここまで怯えるなんて」と思いました。
しかし、同時に「元の飼い主はもういないのに、私がボスのことを『かわいそうだ』と思ってしまったら、きっとこの子はいつまでも『かわいそうな犬』のままになってしまうかもしれない。『かわいそうな犬』なんかにしてたまるか」と悟りました。
ボスが抱える多くの持病に対し、前向きに明るく接する著者でしたが、SNSにボスの写真を載せると「つらくて涙が……」「かわいそうですね」「なんてかわいそうな子」とやはり「かわいそうな犬」といった声が多く、著者はここでもまたハッとします。そして、著者はコミックの一節で、こう表現もしています。
「過去は過去でしかないけど、未来はいくらだって切り開ける。だって今を生きてるんだから。『かわいそう』の5文字からはきっと何も始まらないんだ。見なきゃいけないのは過去じゃない。だってどんな子でも輝けるんだから」
動物を愛する全ての皆様に読んでほしい
本書の制作にあたった担当編集者は、もともと著者がインスタグラムにポストしていた際のフォロワーで作品を楽しみにしていました。著者の優しく前向きな目線が心地良く、保護犬に関する問題の意識づけにも深くつながる内容だとし刊行につなげたと言います。担当編集者に聞きました。
「全方向に配慮された、誰も傷つけない作風で、そしてじんわり心が温かくなるような読後感に惹かれて、お声がけさせていただきました。また、コロナ禍でペットを飼う人が増えたことも出版の契機にはなりました。書籍化にあたってSNSでの投稿より『半歩』踏み込んだ内容も加筆していただきました(例えば、『ペットショップで買ってもいいじゃないか!』など)。読み手の皆さんにとってつらい部分があるかもしれませんが、そこを描くことで、現状を知らなかった人にも届くように、という想いを込めています」(担当編集者)
ただ、この著者の「描く」という作業に関しては相応の苦労があったとも。
「tamtamさん、過去作品のデータをほとんど消してしまっていたので(笑)、本書のためにほぼすべて描き直してくださいました。また、各ワンコの写真も掲載されているのですが、譲渡先のご家族がわざわざ撮影して送ってくださったカットもあります。本当に色々な方にご協力いただきながら仕上がった一冊となりました」(担当編集者)
担当編集者個人として「著者を中心にいろいろな人たちの協力を得て、意見交換できたことが有意義だった」と振り返ってくれました。
「この本を通して何か感じていただければ本当に嬉しいです。おこがましいかもしれませんが、『知って』『考える』きっかけになれることを願いながら著者とスタッフ一丸となり制作しました。動物を愛するすべての皆さまに読んでほしい1冊です。ぜひ手にとっていただければ幸いです」(担当編集者)