死別や離婚などさまざまな事情で、ひとり親家庭になった人の多くが経済的に苦しいと言われていますが、実情はどのようなものなのでしょうか。東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府に住む20代~50代のひとり親の男女594人を対象に「2021年の収入に関するアンケート」を実施したところ、「世帯収入200万円未満のひとり親」は、2019年調査の47%と比べて、2022年調査では54%に増加していることがわかりました。また半数以上の人がパートやアルバイトなどの「非正規雇用」で働いていることもわかったそうです。
ひとり親家庭を対象としたフードバンク事業「グッドごはん」を運営する認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパンが、同事業を利用する利用する「ひとり親家庭等医療費受給者証」を持つひとり親を対象として2022年4月~5月に実施した調査です。
はじめに、ひとり親世帯の「2021年の収入の合計(世帯収入)」ついて聞いたところ、「世帯収入200万円未満」は2019年調査では47%でしたが、2022年調査では54%に増加していました。 これを地域別にみると、近畿圏では60%が世帯収入200万円未満であると回答。さらに、「100万円未満」と回答した人の割合は11%(2019年)から23%に増加していました。また、世帯収入について、不安や心配に思うことについては、以下のような声が寄せられたそうです。
【仕事に関する声】
▽職場がコロナで閉店し、近くの店舗に配属したが、コロナ前のようには働けない
▽コロナの影響で給料がいくらか下り、契約もいつまで更新してもらえるか解らない先行が不安
▽貯蓄もなくこの春高校入学した子供にかなりの金額がかかってしまい、借金を重ねてしまいました。収入もなく、借金ばかりが増えていってしまいます。この先返済していかないといけないのと、生活費を稼いで行かなければならないのですぐにでも働きたいのですが、職安で紹介され、履歴書を送付しても面接まで辿り付かないのが現状です
▽収入は減っているのに、物価が上がり生活が大変です。このままいくと貯金も無くなるので、仕事を変わろうと思っても、採用されず焦ります
【食費に関する声】
▽このまま子ども達が大きくなり中学生になったら、餓死してしまいそうです
▽今は収入のほとんどが食費に消えます。食べ盛りの男の子3人分を賄うのは非常に厳しく、不安以外ないです
【教育に関する声】
▽週6で働いて、仕事が休みの日には日雇いバイトに行ったりもしていますが、生活費で消えてしまい、子どもたちの大学への進学資金に回すことができません
▽現在収入は児童扶養手当や子どものアルバイト代等で賄っておりますが、高校生が3人いるため、この先の進路で大学進学の夢を叶えてあげられるのか、とても不安です
▽今はなんとか生活出来ているがこの先高校生等になった時の出費がどうなってるかが不透明なので不安がある
▽生活にいっぱいいっぱいなので、これから先の進学費用が作れるか心配です
調査を行なった同法人は、「2022年以降の著しい物価上昇は、新型コロナウイルスによる年収減少と相まって大きな痛手となっています。生鮮食品やエネルギー関連など『生活に欠かせないもの』ほど物価上昇の傾向が顕著で、所得が低ければ低いほど、影響を受けやすい現実があります」と説明。
さらに、調査結果を踏まえて「厚生労働省の『2019年 国民生活基礎調査』によれば、児童のいる世帯の平均所得(就労収入のほか、児童手当等の社会保障給付金、その他の収入も含む)は約745万円ですが、フードバンク事業利用者の半数以上は年収200万円未満での生活を送っています。子どもの教育や食事にかかる費用は削りたくない、というのが親の本音です。しかし、新型コロナウイルスによる世帯収入の減少で、3食の食事さえままならない家庭が増えています」と述べています。
次に、「就労形態と就労収入(利用者であるひとり親自身が働いて得た収入)」については、56%が「パートやアルバイトなどの非正規雇用」で働いていると回答。シフト制の仕事で収入が安定しないことはもとより、新型コロナウイルスの影響によってシフトの削減や、子どもの休校対応により仕事が減ってしまったという回答が多数見られたといいます。
また、2019年の調査結果と比較してみると、非正規雇用の割合が51%から56%に増えたことに加え、正規雇用の割合が37%から21%にまで減っていることが分かったそうです。
続いて、「就労による2021年の収入」については、2021年の就労収入が「全くない」と回答した人は13%に上り、その中には「コロナによる解雇」という経緯を持っている人も含まれているといいます。なお、新型コロナウイルスに関連する不安については以下のような声が寄せられたそうです。
▽コロナの影響で収入が不安定になりはじめ、転職して頑張ろうと思った矢先、次は学校や保育園にまでコロナの影響で欠勤が多くなり、また収入が不安定なりました。結局その後、欠勤や収入やその他諸々の不安やストレス等で昨年末からメンタルの病気で退職することになり収入が0になりました
▽飲食業なので…何度も何度も休業になったり、子供が小さいのでコロナで休校や感染などで…仕事を休まないと行けなかったり…まともに働けていません
▽去年はコロナ不況で雇い止めになり、今年は再就職しましたが親子でコロナ感染して収入減
▽コロナで学級閉鎖になり仕事を休んで給料が減ったり、値上げが家計を圧迫して行くのが不安に思います
▽先月は親子でコロナ感染し、1ヶ月のパート代が飛んでしまいました。正社員時代と違い、保証が無くとても不安でした。今は後遺症もあり、なんとか復帰していますが倦怠感があり不安は続いています
▽大黒柱の私の収入がコロナ前に比べて1/4にまで減っている
また、児童扶養手当などの支援制度に関しては、以下のようなコメントが寄せられました。
▽子供が大きくなるにつれて手当がなくなっていくのが怖いです。多子世帯への支援が増えたらいいなって思います
▽男の子3人います。学用品と食費が年々増えますが手当は減ってくるので厳しいです
▽養育費が主な収入ですが、子供の年齢が上がるにつれて 養育費、子供手当て、児童扶養手当が消滅していくので、なおかつ進学も伴うのでこの先、生活できるか不安です
◇ ◇
子どもが成長すればするほどお金がかかり生活が苦しくなる…という現実は、ひとり親の抱える大きな不安の一つだといいます。特に給付金額が大きく、最強のセーフティーネットと呼ばれる児童扶養手当は子どもが18歳になる年までが対象で、大学の進学時期に給付が終わってしまい、経済的な理由で大学進学を諦める低所得家庭は多いそうです。
調査を行なった同法人は、「『サラリーマンの夫と専業主婦の妻、そしてその子ども』に代表される家父長制を基本とした家族モデルは、今や崩壊しつつあります。多様な家族のあり方や生き方がある中、ひとり親家庭はその一つです」と説明。「支援制度の拡充や社会構造の改革を通して、ひとり親やその子どもが生きやすい社会を作り上げていくことは、これからの日本で『誰もが生きやすい社会』を作ることにつながると考えます」と述べています。