反発心。映画『うぉっしゅ』(5月2日公開)の監督・岡﨑育之介(31)は、創作活動のモチベーションをそう表す。
「意識していない、と言いたいけれど『反発心』と言っている時点で根底ではむちゃくちゃ意識しまくっていると思います」
永六輔が祖父という重み
岡﨑監督が意識していると言う人物、それは祖父。昭和を代表する文化人の一人、永六輔さんである。
岡﨑育之介ではなく、永六輔の孫。そんな色眼鏡は幼少の頃からついて回った。
「初対面の大人からは敬語を使われるし、僕を通しておじいちゃんを見ている感とでも言うのか。そんな周囲の態度が幼少の頃から本当に嫌でした。18歳で役者としてデビューしてみたものの、『永六輔の孫』という珍しさのみで利用しようとする大人もたくさんいました。16歳から演技の勉強をしてきたのに、結局は実力や努力って関係ないのかよと。一生懸命貯めたお小遣いでやっと手に入れてたゲームをやってみたら、すでにレベル50だった…。そんな感覚でした」
偉大過ぎる祖父。それだけに周囲の雑音は思いのほか大きかった。
「オーディションに受かれば『まあ、恵まれた家系だからね』と軽くあしらわれるし、落ちれば『え?なぜ?そんなに恵まれた家系なのに?』と言われる。成功しても失敗しても、どちらに転んでも2倍悪く見られるわけです」
ライバルでありファン
反発したくなるのも頷ける。祖父にではなく、自分を通して祖父を見る人々に。
「本当に腹が立ちました。だから反発心というのは自分の活動を支える大きなモチベーションの一つ。いや、それだけでずっとここまでやってきたと言えるかもしれません」
著名人の親族であることを逆手に取ることもできたが、自分自身の腕でどうしても勝負したかった。
日本を離れてバックパッカーとして世界中を旅したり、ニューヨークアクターズスタジオで研鑽したり、孤軍奮闘。脚本家・演出家・監督を志し、25歳から作品制作をスタート。2024年に制作プロダクションを立ち上げ、映画監督として本格的に走り出した。
モノ作りを通して見えてきたのは祖父、いや永六輔という偉人の大きすぎる背中だ。
「僕自身、監督として芸術の深みにどんどん入っていく中で、永六輔という人を理解したいという気持ちが芽生えてきました。モノ作りという点ではライバルですが、今では永六輔の大ファン。めちゃくちゃ面白い人だったなと憧れの眼差しで見ています」
永六輔の感想とは?
2作目となる長編映画監督作『うぉっしゅ』が5月2日から全国公開。中尾有伽と研ナオコをW主演に迎え、疎遠だった祖母を介護する風俗嬢の介護ライフをコミカルに描いた。重い題材をあえて軽快な語り口とテンポで魅せる。その軽妙洒脱さは、祖父から受け継いだセンスの賜物か。
「永六輔が生きていてこの映画を観たとしたら『お疲れ様』くらいしか言ってくれないと思います。厳しい人でしたから褒めることもないでしょう。もしかしたらダメ出しされるかも…。いや、観てもくれないかな?だからこそこの世にいないことが悔しい。勝とうと思っても物理的にもう勝てないわけですから。本当に悔しいです」
その悔しさが創作へのパッションに火をつけていることは間違いない。祖父・永六輔さんの存在によって植え付けられた反発心。いい形で育っている。