「久助ってメーカー名かと思ってた」せんべいにチョコレート“訳あり”菓子ネーミングの謎 「無選別」との違いは?

金井 かおる 金井 かおる

 「『久助』ってメーカー名かと思ってた」ーー。ネット上で偶然、こんな一文を目にしました。久助とは、割れたり欠けたりした商品のこと。「久助せんべい」「チョコレート久助」「久助ロールケーキ」など、メーカーを問わず使われます。通常品より格安の場合が多く、久助目当ての客もいるほどです。勘違いしている人は他にもいるようで、SNSでは「久助っていうせんべいに最近はまってる」などの投稿もありました。それにしてもなぜこんなに渋いネーミングなのでしょうか。

「久助」と「無選別」の違いは?

 「半熟カレーせん」で知られる米菓メーカーまるせん米菓(本社、茨城県桜川市)。同社でも「餃子煎餅久助」や「焼生せんべい久助」など、久助と銘打った商品を製造しています。担当者に聞きました。

──久助は食品業界の業界用語ですか。

 「食品以外ではあまり聞く機会は少ないかと思います。食品の中でも米菓や菓子などでよく使われる印象があります」

──久助の言葉の由来は。

 「私が把握してる中でも諸説あるのですが、完成品を10とすると、完成品になりきれなかったから9。この9から久助になった、というのをよく聞きます」

──久助と無選別の違いは。

 「一般的には久助は割れや欠けなどのこわれ商品、無選別は良品と久助品とのミックス品という認識かと思います。製造工程の中で割れや欠けなど、通常の製品として扱えないものがどうしても出てしまいます。弊社の『餃子煎餅久助』や『焼生せんべい久助』に関しては、そういった製品を選別することなく包装して販売しております。弊社商品における久助は、無選別とほぼ同義と考えていただいて問題ございません」

「久助」のルーツ、3つの説

 国民的辞典といわれる「広辞苑第七版」(岩波書店)で引くと「江戸時代の下男の通称。久三(きゅうざ)・久七などと同じ類」「(久助葛の略)吉野葛(よしのくず)の別称」。訳あり菓子についての記述はありませんでした。触れられていたのは「日本国語大辞典 第二版」(小学館)。「菓子のくずをいう職人仲間の隠語」。

 雑学を集めた書籍にくわしい解説がありました。「食事の席を盛りあげる 雑学の特上ネタ300皿」(河出書房新社)。3つの説が紹介されています。

 1つ目の説は「完全である『十』から一つ欠けたために、『九助』つまり『久助』と呼ばれるようになった」。2つ目は「『五助』という職人が、へまばかりしていたことから、失敗したせんべいを『五助』と呼ぶようになり、やがて『久助』に転じた」。3つ目は「吉野葛の異名が『久助葛』であることから、『葛』を『屑』に結びつけて、二級品のせんべいを『久助』と呼ぶようになった」。同書では「いずれの説も、もっともらしいのだが、現在のところ、どの説が正しいとも判定できない」としています。

 残念ながら「久助=訳あり菓子」の発祥時期ははっきりしませんでしたが、吉野葛が和菓子に使われるようになったのは江戸時代中期以降。店頭でのせんべい販売が盛んになり始めたのもこの頃といわれています。江戸時代から伝わる言葉だとしたら古風なネーミングにも納得です。

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