ユーザーからまいどなニュース編集部に「刑事さんって、張り込みの時、ドラマでは先輩刑事があんぱんと牛乳を買ってきて後輩に『食え』と言ってましたが、実際の張り込みは何を食べていましたか?」という質問が寄せられた。果たして、実際のところはどうなのだろうか。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が当サイトの取材に対し、実体験を踏まえて解説した。
あんぱんと牛乳の組み合わせは、コンビニエンスストアが全国津々浦々まで普及する前の1970年代までの描写として記憶される。昭和の刑事ドラマでは、犯人の潜伏先などを張り込む刑事が電柱の影であんぱんをかじり、牛乳で流し込むといったシーンがあり、それがイメージとして定番化した感がある。ちなみに牛乳は瓶から紙パックの時代に移り、それも三角パックで細いストローが別に付いたもの。あんぱんと共に、個人商店の紙袋に入っていた。
当時の刑事ドラマを見ながら、別に、あんぱんでなくてもいいのでは…と思った視聴者も少なくないだろう。菓子パンなら、クリームパンなど他にもあるし、食事の代用として調理パンやサンドイッチ、ホットドッグにハンバーガー、おにぎり…と選択肢はいくらでもある。飲み物も同様に、コーヒー、お茶、ジュース等、ノンアルコールであれば何でもあり。それでも、あんぱんと牛乳に特化されたのは?
小川氏は「張り込み中の食事は、基本的に車の中で食べることが多いのですが、食事系のおにぎりやサンドイッチなどは臭いが社内に残り嫌がられます。ご飯粒やパンかすも車内に落ちますし。菓子パンの中では、メロンパンは上のカサカサした部分がポロポロ落ちるので車が汚れると敬遠されます」と指摘。消去法でいっても、やはり、あんぱんが現場に適していることを示唆した。
「疲れている時は甘いものを体が欲しているということもあります。近年、あんぱんで人気があるのは、かつて刑事ドラマに出ていた大きいものではなく、小さいものがいくつか入ったもの。ミニサイズのシリーズでは、クリームパンなど、あんパン以外を食べる人もいる。いずれにしても一口サイズで食べやすいので人気です」
さらに、特別な存在が東京・銀座「木村屋総本店」のあんぱんだという。小川氏は「テンション上がるのが『木村屋のあんぱん』です。店が銀座なので、捜査員が張り込み前に買いに行く余裕はないですが、現場や帳場に差し入れで持ってきてくれるとうれしくなります。あんがズシンとしているんですよ。木村屋のあんぱん、テンション上がります」と強調した。
続いて飲み物について、小川氏は「私は牛乳が苦手なこともあり、張り込みで飲んでいたのはコーヒーのブラックでした」とし、「牛乳飲む人を私の周囲では見たことがない」と注目発言。「夏場だと、牛乳を車の中に置いていると悪くなってしまいますし、牛乳が合わない人はお腹を下してトイレが近くなることもある」と理由を説明した。
やはり、張り込み現場にはコーヒーが適しているという。小川氏は「炭酸飲料やオレンジジュースを好む若い刑事もいましたが、コーヒーは徹夜の張り込みなどで眠気覚ましになりますし、飲む人が多かった。私は無糖ブラックでした。コーヒーは利尿作用がありますから、たくさん飲むとトイレが近くなるので、チビチビ飲んだらフタをして保管できるように、プルトップではなく、開閉式のキャップが付いた缶タイプでした。冬場でも、張り込み中は車のエンジンをかけられませんから、冷えた車内で熱いコーヒーで手を温めたりしました」と振り返る。
このほかの張り込み事情について、小川氏は「車の中か家や事務所を借りて刑事が交替でやり、交替後の30分くらいは外食もできる。ただし、立ち食いそばなど注文してすぐ出て来る店です」と補足。さらに「トイレの問題もあります。最近は女性の刑事も増えてきたので、事前に確保する必要がある。コンビニであれば、お借りする分の気持ちとして、弁当やコーヒー、パンなどを買う。ファミレスは食べる時間がなくても、そこにしかトイレがなければ事情を説明してお借りするし、他になければ近くにある会社などにお願いする時もあります」と解説した。
最後に、小川氏は「私がいた現場で当時、研修に来ていた新人に先輩が『メシ買って来て』と頼んだところ、その新人はあんぱんと牛乳を買ってきました。理由を聞くと『刑事の張り込みはあんぱんと牛乳だと思いました』とのことでした」とエピソードを紹介した。
「あんぱんと牛乳」伝説は現場でも実際に生きていたようだ。