吹雪の中で震えながら人待つ女子高校生に、珈琲店の店主がくれた“贈り物” 携帯なき時代の温かい物語

広畑 千春 広畑 千春

 猛吹雪の中、立ち尽くしていた女子高校生。そこに声をかけてくれた、珈琲店のマスターがくれた温かい贈り物-。ツイッターユーザーのぽんた(@Pontamama12345)さんがつぶやいた、そんなツイートが話題になりました。30~40年ほど前のエピソードながら、時も場所も超え、その空気感や表情や珈琲の香りまで漂ってきそうな投稿は「美しい物語のよう」「世の中捨てたもんじゃない、これだから人間やめられない」と、寒さとコロナ禍で凍り付きそうな人々の心を温めています。

 それは、横殴りに雪がたたきつけてくる吹雪の日。ぽんたさんは、車で来る家族と、デパート前で待ち合わせ買い出しをする予定でした。でも、待てど暮らせど家族は来ません。後で分かったことですが、雪のため酷い渋滞につかまっていたのです。

携帯もない時代、身体の芯まで凍え…

 今なら携帯電話ですぐ連絡がつき、「着くまでどこかで待っていて」とやり取りができます。でも、今から30年以上前で、まだ昭和の、携帯電話もなかった時代。待ち合わせをした道端の場所で待っていないと着いた車に乗れず、悪天候の中すれ違いになりかねないため、ぽんたさんは身体の芯まで凍えながら立ち尽くしていました。

 そんな時「大丈夫?」と声を掛けてくれたのは、デパート横にあった珈琲店のマスター。「良かったらお入り。寒いでしょ?」とぽんたさんを店に招き入れてくれました。

 誰もいない店内のカウンター席に座り、温かさにほっとしていたぽんたさんに、マスターは「珈琲飲める?」と尋ねます。「お金を持っていないので…」とぽんたさんが断ると「そんなのいいよ。こんなに寒くちゃお客さん来ないし。珈琲の淹れ方を教えるから、覚えて帰ってよ。待ち合わせの人が来たらすぐ分かるように、ドアは開けておくから」と言ってドリッパーに湯を注ぎ始めました。

 しっかり蒸らし、細かい泡が出るようにお湯を注ぐ…。ぽんたさんは、「目の前で落ちていく珈琲の色の深さと角度によって違う光り方に魅せられました。お茶の産地育ちだったため、それまで飲み物といえば「お茶」。珈琲は、コーヒー牛乳かインスタントコーヒーに砂糖とミルクを入れたものしか知らなかったといいます。ですが、人生で初めて口にしたドリップ珈琲は、何も入れていないのに「甘かった」と振り返ります。

「それが本当の珈琲の味なんだよ」

 驚くぽんたさんに、マスターは「それが本当の珈琲の味なんだよ。美味しいんだよね、これブルーマウンテンっていう種類」とほほ笑みます。メニュー表を見ると「1杯600円」。「家族が来たらお支払いします!」と慌てるぽんたさんに「僕が淹れたかったんだから。お客さん来ないから暇でさ。それに、珈琲好きな人を増やすのが楽しいんだよ」と話してくれたそうです。

 家族は1時間以上遅れて到着し、無事合流できました。ぽんたさんはその後、遠く離れた土地へ進学し、店を再訪することは叶わぬまま4年が過ぎました。そしてやっと自分の車を手に入れ訪れた時、店は、再開発のためデパートと共に移転した後で、すっかり更地になっていたそうです。

 それから長い長い月日を経て、ぽんたさんのつぶやきには12.4万を超えるいいねが寄せられました。「あの日と同じような吹雪の日に、大切な記憶を日記代わりに呟いたものですのに、こんなにも多くの方々から共感を頂けて心から有り難く思います」とぽんたさん。「再会できていないから、余計に忘れられません…。大人からの善意に護られていた時代と粋でダンディーなマスターのことを思い出すたびに、私もあんな優しく親切な大人になりたいと思いながら成長しました」。

 「今は『声掛け事案』になる懸念もある難しい時代ですが、困っている人に手を差し伸べられる大人であり続けたいと思っていますし、これだけマスターのお気持ちに共感頂いたのも、もしかしたら『チャンスがあれば他人に親切にしたい』というお気持ちを外に出せてはいなくても心の中に秘めている方々が大勢いらっしゃるのではないかしら?」と話します。

 もちろん、ぽんたさんはこの出会い以来、すっかり珈琲党に。「もう、ずっとドリップ珈琲」といい、豆やブレンドによる味の違いに感動し、産地や焙煎方法で全く味が変わることに驚き、豆の種類も沢山試したそう。「銘柄は特に決めていませんが、どれもブラックが美味しいですね~。というか、ブラックじゃないと飲めないんです」とぽんたさん。「淹れ方も様々あり、色々試しました」と言いますが、やはり最後は、マスターの教えに戻ってきてしまうそうです。

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