開設41年になる兵庫県姫路市の「なるせ音楽教室」は、地域に密着したまちの音楽教室。ピアノ、ギター、サックス、ボーカルなどの個人レッスンが受けられ、子どもからシニアまでが通っている。代表の成瀬美恵子さん(62)の信条は「音楽を楽しむ力を身につけるお手伝い」。教室では飼い猫の黒猫「ジジィ」(オス、5歳)とサバシロの「シルフィ」(オス、9ヶ月)が生徒たちのレッスンに寄り添う。成瀬さんに、2匹との出会いや教室での猫たちの様子などについて聞いた。
ずっと猫と一緒に暮らしたいと思っていたものの、娘2人が独立したと思ったら、今度は両親の介護が始まり、なかなか猫を飼う機会がなかったんです。2014年に母が亡くなり、寝たきりの父をサービス付き高齢者住宅に入居させたのはその2年後でした。入居してしばらく経ったある日、その施設の入口で、母猫とはぐれたのか玄関に迷い込み、施設長さんに「これっ!」と叱られていた黒い子猫と偶然出会ったんですよ。それがジジィです。
責任を持って猫を最期まで世話するためにも、60歳になるまでには飼いたい、と思っていたこともあり、運命の子だと感じました。自転車のかごに入れてみたらじっとしておとなしくしていますし、施設長さんは困っていたので、私が引き取りますと申し出ると喜んでくれて。翌日、動物病院へ連れていくと、体重は約500グラム。生後1ヶ月くらいだろうとのことでした。目ヤニがひどかったけど健康に問題はなく、ついに念願の猫を家に迎えられて、すごく嬉しかったのを覚えています。
音楽教室は自宅兼なので、生徒さんが入れかわり立ちかわり、ジジィをなでていってね。すぐ人気者になりました。中には猫が苦手な子もいましたけど、ジジィはおとなしくてやさしい性格。次第にそうした子まで「そのまま教室にいていいよ」と言ってくれるようになりました。一般的に黒猫のオスってフレンドリーな子が多いんだそうですが、ジジィも小さいころからいろんな人が出入りする環境で育ってきたこともあり、誰がなでても嫌がらず、人なつっこいです。
一方、シルフィは昨年5月にやってきました。その前に10日間ほど私が病気で入院したんですけど、ジジィは突然、私がいなくなってさびしかったんでしょう。毛艶がガサガサになり、家族にも「母ちゃんはどこいった?」と怒るような声でニャーと訴えたそうです。そこで、もう1匹いたらジジィの気も紛れるかなと、生徒さんの知り合いから譲り受けたのがシルフィです。カラスに突かれていたところを救出、保護された子です。
ジジィは温厚な性格なんですけど若いシルフィはやんちゃで、ジジィを見るとすぐにレスリングをしかけるのがいまの悩みの種(笑)。レッスンに来る小2の男の子のお母さんなんか「うちの子もやんちゃでね。シルフィとうちの子と、果たしてどっちが先に成長してくれるやろか?」とやきもきする声もあるくらいなんです(笑)
教室はおかげさまで今年で41年になります。誰でもお気に入りの曲や励まされる曲ってあるでしょう。そんな曲をただ聴くだけでなく、自分でも演奏できたら素敵ですよね。でも、楽器は本人が練習しないと弾けるようにはならないし、ある程度上手に弾けるようになってはじめて音楽の楽しさもわかってくるもの。うちでは、ただテクニックを教えるだけではなく、褒めたり長所(個性)を伸ばしたりしながら、生徒さんのやる気を後押しするような指導を心がけています。
そのとき、教室に猫がいると、なんだかとてもほっこりしていいんですよね(笑)。「猫と遊びたいから」とレッスンが始まる少し前にやってくる子はたくさんいますし、この課題ができるようになったらジジィやシルフィにおやつをあげていいよというと、みんなすごく頑張って練習してくれます。特に小さいお子さんにとっては猫と接することが情操教育にもなり、それが音楽に結びついていくかもしれません。
ジジィには大好きなギターの先生がいるんですよ。その先生のレッスンが終わりかけると出待ちしています。たまにかまってもらえないときがあると、すねて私に八つ当たりするんですよ(笑)。2匹は楽器が鳴っていても全然平気。ピアノの上で生徒さんの演奏を聴きながら寝ているときもあります。レッスン中、「ジジィもちゃんと聴いているよ」というと、みんな気を引き締めてやってくれます。
子猫のころは気付かなかったのですが、実はジジィのお腹には小さな白いハートマークがあるんですよ。これはエンジェルマークといって、「天使が触れたあと」とか「幸せを呼ぶ猫の印」と呼ばれています。黒猫は福をもたらす猫なんですよね。生徒さんたちが音楽って楽しい!と心から感じてもらえるよう、これからもそばで一緒に見守っていてほしいです。
【施設名】「なるせ音楽教室」
【住所】兵庫県姫路市飾磨区清水107
【ホームページ】https://narusemusic.com