米中の対立はもう後戻り出来ないところまで来ている。21世紀に入って中国が政治経済的な台頭を示すなか、米国には中国が自由と民主主義という価値を重視していくだろうとの予測も一部にあったが、それは見事に裏切られる形になった。オバマ政権の対中政策は甘かったと批判する声も多かったが、トランプ政権になってそれは一段と厳しくなり、バイデン政権になっては英国やオーストラリア、カナダなど他の国々と対中で共同歩調を取るようになっている。今日、共和党、民主党問わず、中国への認識には超党派的なものがあり、脱トランプを掲げるバイデン政権も対中ではトランプ路線を継承している。
そして、3つの政権を通してホワイトハウスの対中姿勢が厳しくなる中、米国民の中国への認識も厳しくなっている。昨年12月、米国のシンクタンク「Ronald Reagan Presidential Foundation and Institute」が公表した世論調査によると、「どの国が最も米国にとって脅威か」との質問に対し、回答者の52パーセントが中国と回答した。次いで、ロシアが14パーセント、北朝鮮が12パーセントとなったが、2018年に実施された同じ調査で中国を脅威と回答した割合が21パーセントだったことから、3年間で大幅に増加したことになる。
このように、米国民の間でも中国への警戒意識が強まることによって、今日支持率低下で苦しむバイデン政権は対中で厳しい姿勢を取り続けるだけでなく、共和党支持層によるバイデン批判を交わそうとするだろう。バイデン政権にとって、中国というカードはもはや米国の国益だけを意識したものだけでなく、今年の中間選挙や2年後の大統領選挙を勝利する上で重要なカードになっている。
このような事情を考慮すれば、今年も米中対立が続くことは簡単に予測でき、場合によって緊張がさらにエスカレートするだろう。それを注視していく上で試金石となるのは2月の北京五輪だ。既に、米国と英国、カナダとオーストラリアなどが閣僚などを派遣しない外交的ボイコットを宣言しているが、北京五輪の偉大な成功を目標とする習政権は北京五輪後にも米国などへ対抗策を打って出る能性がある。具体的には、軍事的手段は最大限回避する一方、米国や英国などに経済的な制裁を科す手段が考えられるが、対立の悪化が世界経済に大きなダメージを与えることが懸念される。
昨年、バイデン政権が新疆ウイグルの人権問題で中国に厳しく迫るようになり、世界企業の間では人権デューデジェンス(企業が事業活動に伴う「人権侵害リスク」を把握し、予防や軽減策を講じること)の意識が高まり、ユニクロなど一部の日本企業が自社製品の輸入差し止め、調達先変更などを余儀なくされたが、今年は米中対立がエスカレートすることによって経済活動で制限を受ける企業の数がさらに増える恐れが考えられよう。米中間の軍事的リスクの可能性も排除はできないが、それよりもまずは経済的リスクの方が現実的に考えられる。岸田政権は経済安全保障を重視する方針を打ち出しているが、今年は米中対立による経済への悪影響が昨年以上に先鋭化する恐れがある。