ドイツでは12月、ショルツ次期首相が就任するが、ショルツ政権は人権改善などで中国に厳しい姿勢を取り、バイデン政権の米国と足並みを揃えると言われている。米中対立が深まる中、欧州ではこれまで英国が特に中国へ態度を示してきたが、ショルツ政権もそれに連動することになれば、欧米と中国との対立は来年さらに激しくなり、岸田政権の対中政策はいっそう舵取りが難しくなるだろう。
その行方を占う上で、まず直面するのが来年2月に迫った北京冬季五輪だ。北京冬季五輪の外交ボイコットについて、米国は春以降からそれをちらつかせる言動をしている。たとえば、米国議会の下院議長は5月、習政権による香港国家安全維持法の施行やウイグル人権問題などを理由に、北京五輪の開会式や閉会式の際、各国に選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせる外交的なボイコットを行うよう呼び掛けた。これ以降、米国はボイコットするかしないか、中国の言動や政策を見極める姿勢を堅持している。EUの欧州議会も7月、同様の理由で、習政権からの開会式招待などを辞退するよう加盟国に求める決議を採択した。
そして、北京冬季五輪が近づく中、この動きは米国やEUだけでなく他の国々にも拡がっている。英国の有力紙タイムズ紙(電子版)は11月20日、ジョンソン政権が選手団以外の外交使節団を派遣しないことを検討していると報じ、オーストラリアの有力紙シドニー・モーニング・ヘラルド(電子版)も11月25日、モリソン政権が外相などの派遣拒否を検討していると報じた。米国と英国、オーストラリアは今年新たな安全保障協力オーカスを創設するなど、対中国で結束を強化しており、今回の動きもその延長線上で考えていいだろう。
そして、今後ポイントになるのがフランスやドイツなど欧州主要国がどう動くかだろう。冒頭でも述べたように、ショルツ次期政権はメルケル政権より中国に対して厳しい姿勢で臨むとの見方があり、仮に米英と同じようにボイコットに出るとなれば、フランスもそれに続く可能性が高くなる。そうなれば、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す日本としては、重要なパートナー諸国の殆どが外交的ボイコットを実施することになり、日本は正に欧米と中国との間で板挟みになる。
一方、習政権はそれを大々的に成功させることを目標としており、今の時期はできるだけ諸外国との関係悪化を避けたいという思惑もあるが、日本に対してはけん制する動きを見せている。中国外務省の報道官は11月25日、「コロナ禍の中、中国は日本の東京五輪開催を全面的に支持してきた、日本は基本的な信義を持つべきだ」と述べ、欧米の動きに便乗しないよう日本に求めた。
岸田政権にとって、これは岸田外交を上手くスタートさせる上で重要な決断になるだろう。世論では、安全保障を重視する人々からは欧米と協調すべきとの意見が聞かれる一方、経済を重視する人々からは外交的ボイコットを控えるべきとの意見が聞かれる。東京五輪の開催を中国が強く支持したという部分では、外交的に日本は欧米と完全に共同歩調を取るという選択は難しいかも知れないが、それは欧米との間で少なからず亀裂が生じるリスクを伴う。岸田政権にとっては初めの難題となるだろう。