広島・宮島の厳島神社前の表参道商店街にある宮島しゃもじ専門店「杓子(しゃくし)の家」。同店では、今から200年以上前、僧・誓真(せいしん)が弁財天の琵琶にヒントを得て島民に作り方を教えたといわれる伝統工芸品・宮島杓子の製造販売を行っており、オリジナルの手書き文字を入れてくれるサービスが人気だ。ここで観光客らに人気なのが、宮郷厚樹社長の母親・政代さん(77)の飼い猫「J(ジェイ)」(オス、推定12歳)だ。2015年夏、スタッフの三谷邦子さん(54)がJA広島総合病院近くで野良生活を送っている姿を見て不憫に思い保護。以来、同店の看板猫を務めている。Jがやってきた経緯や招き猫ぶりなどについて、三谷さんと政代さんに話を聞いた。
三谷さん 2015年の夏、私が病院へ行ったとき、広島電鉄のJA広島病院前駅のあたりに、薄汚れた茶色い野良の成猫がいたんですよ。そのときは「猫おるわ」という感じであまり気にかけなかったのですが、1ヶ月後に再び病院へ行った際、その子がまた同じ所にいました。おそらく地域の方から、そこでエサをもらっていたのでしょう。
ただ、その日は、大型で非常に強い台風が広島に再接近する2日前だったんです。私の家では猫を5匹飼っているので、それ以上は飼えません。そこで、どうしたらいいだろうと、奥さん(政代さん)に連絡したんです。
政代さん:私も猫は大好きで、これまで数多くの猫たちを保護したり飼ったりしてきました。三谷さんから相談があったとき、台風の襲来が差し迫っていたこともあり、それなら保護して連れてきなさいと。そうして連れてきた子を見ると、茶色の毛だったのでてっきり茶色い猫と思っていたんですけど、綺麗に洗ってみたら、実はロシアンブルーみたいなグレイの毛並みが美しい猫で、ただ汚れていただけだったんです(笑)。
三谷さん:もしそのとき保護していなければ、暴風雨でおそらく死んでいたかもしれません。「J」という名前は、保護した場所がJA広島総合病院の前だったから。今はみんなから「Jくん」と呼ばれ親しまれています。
政代さん(以下同):ここにやってきた当初から、すごく甘えんぼうで、寂しがり屋さんでね。私が寝ていたら自分から布団の中に入ってくるんですよ。人馴れしていて警戒心がないので、もしかしたら捨てられたのかもしれないですね。当初は店内に置いたカゴの中で過ごしていたんですけど、次第に狭くなってきたので、知り合いの大工さんにお願いして居心地のいい今の木製の木箱を作ってもらいました。
この子はスタッフやお客さんなど誰になでられても、嫌がらずにじっとしています。こんな子は珍しいですよね。修学旅行生たちは、Jくんを見つけると、「うわ、かわいい!」と喜んでなでたり写真を撮ったりして「旅行のいい思い出になった」と言ってくれます。お土産にと、販売している小さな杓子ストラップに飼い猫の名前を書く子もいます。Jくんのためにプレゼントを持ってきてくださる方や、遠方から「Jくんに会いに来た」という観光客の方もおられます。そうした招き猫ぶりが次第にテレビ番組でも取り上げられて、Jくんは、店にいなくてはならないアイドルになっていきました。
観光地はどこもそうでしょうけど、昨年来のコロナ禍で宮島へやってこられる観光客の方々も激減しました。この秋ごろから修学旅行生や観光客が戻ってきて、最近になってようやく参道は賑わいを取り戻しつつありますが、一時は誰も歩いておらず、まるでゴーストタウンのようでした。同業者らと「宮島、大丈夫なんかね」とよく話し合ったものです。
参拝に訪れるたくさんの方々が店の前の参道を歩いている光景が、以前は当たり前でしたけど、今はなんとありがたいことかと感じます。お客さんにこうして来ていただけるだけで感謝です。
宮島杓子は、夫婦円満、商売繁盛、勝運など「幸運をめしとる」縁起もの。来年はコロナ禍が落ち着いて、誰の元にも幸運がたくさん訪れる1年になってほしいと、Jくんとともに祈っています。
【店名】「宮島 杓子の家」
【住所】広島県廿日市市宮島町488
【ホームページ】https://shakushi.jp
【インスタグラム】shakushi_no_ie.miyajima