10月31日の総選挙が終わり、今月10日、第2次岸田内閣が発足した。第2次といっても総選挙があったことから、実質的に第1次岸田内閣の発足と言っていいだろう。岸田政権が直面する課題は新型コロナや経済が最優先課題になるだろうが、外交・安全保障は菅前政権同様に難しい舵取りになる可能性が高い。
これまでの岸田首相の発言を聞いていると、岸田政権は日米関係を基軸に、日米同盟のさらなる強化、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて協力し、中国やロシアに対しては主張すべきは主張し、毅然とした外交を進める方針だ。特に、大国化する中国に対しては、経済的な関係も考慮し、硬軟両様の姿勢で臨むことが予想される。
上記のような外交姿勢は、菅政権や安倍政権と大きく変わらず、基本的に岸田政権は前政権からの姿勢を継承していると評価できる。よって、外交・安全保障分野は大きく変化することはないと思う人がいるかも知れない。
しかし、外交・安全保障はその時の政権の方針・姿勢だけで動くわけではない。選挙で論点となる外交・安全保障が、経済や社会保障、憲法改正など他の論点と大きく異なるのは、その政策を進めていく上で相手がいて、それによって政策が大きく変化するところだ。では、岸田政権の外交・安全保障はどのような課題に直面し、どう政策が展開されていく可能性があるのか。
岸田政権の外交・安全保障を考えるにおいては、政治力学の変化がポイントになる。上述のように、安倍政権や菅政権とビジョンや戦略において大きな変化はない。しかし、米中対立を中心とする国際関係が変化する中では、岸田政権の外交・安全保障は前政権とは違ったものになってくる可能性がある。
すなわち、安倍政権の時代は米中対立が本格化し、菅政権の時代では米中対立が他の欧米諸国を巻き込む形で拡大し、岸田政権では欧米対中国の図式が本格化することが予想される。バイデン政権は気候変動など中国と協力できる分野は協力する余地を残しているが、基本的には中国への包囲網を固めるスタンスである一方、中国は“毛沢東で中国人民が立ち上がり、鄧小平で豊かになり、習近平で強くなった”というビジョンのもと、習政権の権力基盤をさらに強化する方針で、米中対立は今後いっそう激しくなる可能性が高い。
そうなれば、安倍政権や菅政権と比べ、岸田政権が硬軟両様の姿勢を堅持できる余地は小さくなるだろう。政策の方針を変えることは国のリーダーにできても、今日の国際的な政治力学の変化を変えることは不可能に近い。
しかし、そのような情勢変化でも、安全保障の関係もあり日本は米国との関係を基本にすることから、その中で中国とどう付き合っていくかが現実的な課題となる。日本の政治、経済的な国益を考えると、中国に対しては硬軟両様の姿勢がベストであることは間違いない。だが、政治力学の変化はその維持を困難にし、岸田政権は安倍、菅政権以上に難しい舵取りを余儀なくされる可能性があることを、我々は理解しておく必要がある。