バルト三国の1つで、最近はサッカー元日本代表の本田がプレーするリトアニアで大きな問題が発覚した。リトアニアの国防省が9月下旬、国内で市販されている中国製スマートフォンに検閲機能が内蔵されているとして、国民に対して「購入しない」もしくは「既に使用していたら処分する」よう呼び掛けたのだ。
問題となっているのは、北京に拠点を置く大手家電メーカー「小米科技(シャオミ)」が販売するスマートフォン。習政権が敏感になる「Free Tibet(チベットに自由を)」「democracy movement(民主化運動)」「Long live Taiwanindependence(台湾独立万歳)」などといった言葉を検出、検閲できる機能が内蔵され、利用者がこれら言葉を含むコンテンツをダウンロードしようとしてもそれを妨害できる仕組みになっているという。そして、いつでも遠隔操作が可能で、暗号化された利用者の個人情報や利用データが外国のサーバーに送られていると同国防省は述べている。現在のところ、これについてシャオミ側は正式なコメントを発表していない。
この問題でどの程度プライバシーの権利が侵害されたか、中国当局がどの程度関与しているかなどはっきりしないことが多い。しかし、今回、リトアニア国防省が大きく打って出た背景には、最近の両国関係の悪化が影響しているのだろう。
近年、リトアニアは東欧でも影響力を高める中国への警戒感を強め、台湾へ接近する姿勢を鮮明にしている。今年8月、リトアニアは台湾の名称を冠した代表機関(事実の大使館)を開設することを発表したが、中国はそれに強く反発し、中国にいるリトアニア大使に対して直ちに北京を離れるよう要求し、在リトアニア中国大使を召還することを決定した。また、今年6月には、リトアニアは台湾へ新型コロナウイルスワクチン2万回分を提供し、去年4月には、リトアニア国会議員らが大統領に対して台湾の世界保健機関への参加を支持するよう求める書簡を発表した。こういった政治的な流れが今回の件を誘発し、今後は中国によるリトアニアへの経済的な制裁が実施される可能性が考えられる。
今回問題になったスマートフォンは、リトアニアだけでなく欧州各国でも流通しており、既に調査に着手した国もある。ドイツは同種のスマートフォンが国内に流通しているとして、安全性の観点から調査に乗り出している。近年、英国やフランス、ドイツなど欧州もインド太平洋への関心を強め、中長期的にインド太平洋に関与する姿勢を示しているが、中国はそれに反発しており、今後は欧州と中国との対立もより先鋭化し、今回のリトアニアのケースにように人々の身近なところでも影響が出てくる恐れがある。
一方、日本はどうだろうか。日本でもシャオミ製スマートフォンを含め多くの中国製品が流通している。スマートフォンにしてもノートパソコンにしても、中国製は欧米製に比べてかなりの安価で、中国製品を使用している人もかなり多い。当然ながら、中国製品の中にも性能の良いものも多く、バイアスを持つべきではないが、今後の米中対立と日中関係の行方を考えれば、リトアニアのケースは決して日本にとっても対岸の火事ではない。経済安全保障という問題は日常生活に密着した問題であることを、我々日本人は危機管理的視点から注視していく必要がある。