2月1日に中国では海警局による武器使用を明文化した海警法が施行されたが、それ以降、海警局の公船による尖閣諸島周辺への領海侵犯や日本漁船への追尾や接近が急増している。中国側には必要な場合における武器使用を強調することで日本や米国をけん制する意図があるだけでなく、既成事実を積み重ねることで中国優位の状況に変えていきたい狙いがある。今後もこのような状況が続くことが考えられることから、偶発的な衝突が発生する恐れもある。現在も尖閣諸島周辺の接続水域では毎日のように海警局の船が確認されている。
中国国防省は3月1日に声明を発表し、「尖閣諸島は中国固有の領土であり、中国船舶が同諸島周辺で航行することは正当かつ合法であり、今後もそれを常態化させていく」との意思を明らかにし、中国外務省も、「日本が尖閣諸島への上陸を強行すれば、海警法が定める重大犯罪に当てはまり危害射撃の可能性もある」と指摘した。長年、中国は尖閣諸島の領有権を主張しているが、その主張はより具体的になってきているだけでなく、日本へのけん制もより強硬になっている。
海警法22条では、中国の主権が侵害された場合に武器使用を含むあらゆる手段での取り締まりが可能だと規定されているが、国連海洋法条約では沿岸国が可能な措置は退去命令や立ち入り検査などで、武器使用はそもそも国際法上違法となる。しかし、2016年7月に国際仲裁裁判所が中国の南シナ海で主張する九段線は無効だとする判決を出したにも関わらず、習政権はそれを無視して一方的な軍事拠点化を続けている。それと同じように、国際社会が海警法は国際法に違反しているとキャンペーンを強化しても、中国の行動が変わる可能性は極めて低い。今後は“この海警法に基づいて”と法的根拠を内外にアピールし、断固とした措置を取ってくることは想像に難くない。
一方、海上保安庁法の第20条第2項では、「海上保安官又は海上保安官補は、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる」と規定されているが、「外国船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものを除く)」とある。要は、法律通りだと中国公船に対しては武器が使えないこととなる。そのようななか、日本政府は2月下旬、警察官職務執行法第7条を援用し、尖閣諸島周辺を航行する中国公船に対して危害射撃を含む武器使用が可能であると見解を示した。自民党議員らは、政府に対して法解釈の援用ではなく、それを可能とすべく法律そのものの改正を求めている。
海警法を巡って中国日本とも互いをけん制し合っている。しかし、客観的に考えても厳しい立場にあるのは日本である。日中の軍事費や防衛力の差はどんどん開いており、たとえ軍事的な衝突に発展したとしても日本が勝てる確率は低いのが現実だ。日米安全保障条約第5条には米国の対日防衛義務が明記されているが、どこまで日本の有事で米軍が協力するかはその時の米政権の判断による。
中国も軍事衝突に発展するようなシナリオはできるだけ避けるだろうが、中国が絶対に譲ることのできない核心的利益に位置付ける尖閣を巡っては断固とした措置を取るだろう。現在、北京は海警法を巡る日本の出方を窺っており、それに応じて剛柔を巧みに使い分けながら日本へ圧力を掛けてくる。海警法もボディーブローのように効いてくると思われ、尖閣を巡る日本の立場は日に日に厳しさを増してきている。