米国と中国の陣営固めともいえる対立が激しくなる中、英国で開催されていた先進7カ国の外相会合は5日、新型コロナパンデミックとともに中国とロシアが現在直面する最大の脅威と位置付けた。今回の外相会談にはG7に加え、韓国とオーストラリア、インドなどの外相も招待されており、今後米国を軸とする自由・民主主義陣営と中国やロシアとの対立がいっそう深まることが懸念される。夏に開催されるG7サミットでも韓国とオーストラリア、インドが招待されている。今回の外相会合や首脳会合などを機に、政治的には米国と中国の陣営固めが加速化している。しかし、日本の経済界では今後の米中対立に伴う日中経済への影響を懸念する声が高まっている。
3月下旬、新疆ウイグル自治区での人権弾圧や強制労働を懸念し、H&Mやナイキなどの欧米企業がウイグル産綿花を使わないと発表したことで、中国国内のSNS上では「H&Mやナイキの製品は買うな!」など不買運動を呼び掛ける声が一時的に拡散した。そして、これに関連して食品大手カゴメは4月中旬、ウイグル産のトマト利用を今年中に停止すると発表したが、その後中国国内のネット上ではネガティブキャンペーンが一斉に始まり、SNS上では「これからはカゴメの商品は買わない!」などの投稿もあった。
過去に中国に展開する日系企業は、日中間の政治的摩擦から被害を受けたことがある。2005年には、小泉首相による靖国神社参拝で中国では日本製品の不買運動が広がり、その後も2010年の尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件、2012年の日本政府による尖閣諸島の国有化宣言などによって、日本向けのレアアース輸出制限、中国各地におけるトヨタやパナソニック、ホンダやイオンなどの店舗・工場への破壊や放火、略奪などがあった。
最近、ウェビナーで中国に展開する日系企業担当者たちと議論したが、明らかにここ数年と比べ対中リスクを心配する声が増えている。大きなきっかけの1つが、昨年7月に施行された香港国家安全維持法だ。同法に基づいて民主派議員や団体への締め付けが強化されるなど香港の自由が破壊され、事実上、一国二制度から一国一制度になっている。香港にも多くの日系企業が進出しているが、日系企業が適用基準の曖昧な同法によって取り締まりの対象になることを心配する声もある。
同ウェビナーではそれも影響してか、「習政権は香港への圧力を強化しており、香港で今までのような経済活動はできない」、「香港問題も影響して米中対立は激しくなっており、それに伴って日中関係に摩擦が生じれば過去のような事態になる可能性がある」、「今すぐ中国から撤退することはないが、今後の動向によっては対中依存度を下げることを検討する」などの意見が上がった。
当然ながら、日本経済の対中シェアを考えれば、現在の政治的摩擦で中国から撤退・規模縮小を実行する企業はごく少数だろう。撤退コストもあり、決して簡単な決断ではない。だが、撤退や規模縮小はすぐできることではないことから、政治的摩擦から生ずる悪影響を最小化するためにも、日々情勢を注視し、ASEANへ比重を移すなどのリスクヘッジは重要な選択肢だろう。中国進出の日系企業からは心配する声が増えている。