姿消す、懐かしの「町中華」 京都の名物店まとめた本が異例の売れ行き

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 近年、情報番組や雑誌で特集されることが増えた、地域に根ざした中華料理店「町中華」。そんな中、京都市内の店をテーマにした著作「京都町中華倶楽部(くらぶ)」が、人気を集めている。筆者が約3年間で200店以上を巡り、町中華にふさわしい店を独自に選出した。増刷のたびに完売となっていて、著者は「京都の町中華を保存、記録する本にしたかった」と語る。

 出版したのは、京都市右京区太秦の出版社「しろうべえ書房」。漫画家の中島志朗さん(36)と妻でライターの安藤美冬さん(42)が経営し、執筆から製造販売を手掛ける。

 執筆のきっかけは、閉店する店の増加に気づいたこと。「町中華の雰囲気や町並みなどを書き残しておきたい」と中島さん。2017年から構想を練り、週に1、2回のペースで安藤さんや4歳の長女と一緒に中華料理店を巡った。「時には食べ過ぎで体調が悪くなることもあった」と笑う。

 取材、執筆は2人で担当。中島さんが表紙や挿絵のイラスト、安藤さんは校正や編集作業を手掛け、創刊号では約40店舗を取り上げた。町中華の定義は多様だが、大衆向け中華料理店とするケースが多い。2人は町中華を「昭和の日本が生んだ庶民中華料理店」と独自に定義。黄色の看板や赤色のカウンターなど昭和の雰囲気が漂う店を認定した。該当しなかった店舗は「高級中華」「チャイナ」などの5ジャンルに振り分けた。

 町中華の約30店舗について、雰囲気やお勧めの一品などをユーモアを交えながら紹介。左京区のある店の外観は「時代に取り残されたかのようにひっそりと佇(たたず)んでいる」と表現し、中京区の店主を「蒸気機関車のピストン運動のような動きで鍋を振る」と評す。閉店した店には「五十七年間お疲れさまでした」「どこよりも美味しい店だった」などとコメントが付き、著者の寂しさを伝えている。町中華の所在地を記した地図もあり、ただし書きにはこう続く。「必ずしも旨(うま)いというわけではない」

 冒頭の漫画は、昨冬に閉店した西陣地域の店を題材にした。閉店の理由は店主の病気だったといい、中島さんは「高齢化や後継者不足で、数を減らしているのが今の町中華。それを象徴する店舗だった」。

 昨年12月の初版100部は数日で完売。その後も数回増刷したが、すぐさま完売し、中島さんは「町中華は京都の町並みの一部だと思う。ただのレトロ本としてではなく、京都の固有の文化を残すことにもつなげたい」と話す。

 715円。A5判、124ページ。詳細はしろうべえ書店のホームページへ。

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