非電化・単線化で固定費削減 JR東日本「設備のスリム化」計画が問いかける「地方ローカル線」の未来

新田 浩之 新田 浩之

JR東日本は4月30日に2021年3月期の決算説明会の資料を公開しました。その中でローカル線に対する興味深いプロジェクトが明らかになりました。

「非電化・単線化」というスリム化プロジェクト 

2021年3月期の決算説明資料の中で注目されたのが「設備のスリム化」です。目的は固定費を削減することにより、経営体質を強化すること。JR東日本に限らず、全国の鉄道会社はコロナ禍により運輸収入が減少しており、経営体質の強化が待ったなしの課題です。

「設備のスリム化」では電車からハイブリット車等への置き換え、架線や変電設備等の撤去、単線化等により、線路や信号設備等の撤去が挙げられています。つまり従来型の電車を走らせない「非電化」と複線を単線にする「単線化」がポイントです。

近年、JR東日本では架線や変電設備がいらない蓄電池駆動電車や電気式気動車、ディーゼルエンジンと蓄電池を併用したハイブリッド気動車を積極的に投入しています。「設備のスリム化」ではこれらの車両の投入を見据えています。

2021年5月現在、JR東日本から「設備のスリム化」対象路線は発表されていません。ここからは今までのJR東日本の動きから対象路線を予想します。

先ほど紹介した新車両は烏山線(宝積寺~烏山)、男鹿線(追分~男鹿)、仙石東北ライン(仙台~女川)など、いずれも首都圏と比較すれば列車本数は極めて少ない路線です。また特急列車が設定されていない路線が多い点も見逃せないポイントです。

上記の路線や特徴を考えると、「非電化」もしくは「単線化」の対象になるのは弥彦線(弥彦~東三条)、越後線の一部(柏崎~吉田)、磐越西線の一部(郡山~喜多方)、吾妻線の一部(長野原草津口~大前)、信越本線の一部(高崎~横川)あたりが「候補」という感じでしょうか。何はともあれ、今後のJR東日本の発表に注目したいところです。

過去にもあった「非電化」の路線の生末は? 

JR東日本では「非電化」にされた路線はありませんが、国内に範囲を広げると実施されたところがあります。

名古屋鉄道では1984(昭和59)年に八百津線(明智~八百津)、1985(昭和60)年に三河北線の一部(猿投~西中金)、1990(平成2)年に三河南線の一部(碧南~吉良吉田)にて電車から気動車への転換、すなわち「非電化」が行われました。これらの路線は比較的利用客が少なく、電気設備などの固定費を削減することによる収支の改善を目的としていました。

しかし「一発逆転ホームラン」とはならず、2004(平成16)年までに全て廃止されています。また宮城県を走っていたくりはら田園鉄道(石越~細倉マインパーク前)も栗駒電鉄からの移管の際に「非電化」になりましたが、2007(平成19)年に廃止されています。「非電化」時代は計12年でした。

もちろん沿線環境や新技術の導入など、JR東日本が発表した「設備のスリム化」は従来の「非電化」とは異なる点が数多くあります。ただ、以前に「非電化」した路線が結果的には廃止されたという事実を確認することは無駄ではないでしょう。全国のローカル線にも影響を与えそうな今回のJR東日本のプロジェクト。今後の動きや沿線住民の反応にも注目したいところです。

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