感染収束の切り札のひとつであるワクチンについて考えてみた<後編>

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

 3度目の緊急事態宣言が出されました。医療逼迫の状況も改善されず、不安が広がります。感染収束の切り札のひとつであるワクチンについて、現状と課題や今後について、海外事例も参考に、考えてみたいと思います。

目次
#1 国内のワクチン接種の状況
#2 7月末までに高齢者の接種完了?
#3 「大規模接種会場」の新設
#4 五輪参加者への医療資源の提供が優先?
#5 イスラエルのワクチン戦略
#6 「誰ひとり、取り残さない」

イスラエルのワクチン戦略

  ワクチン開発・製造国でないイスラエルが、新型コロナワクチンの接種率世界一(2回接種を完了した者が、人口の58.5%、5月3日)であり、感染者数が減少し、社会に日常が戻ってきていることが、よく指摘されます。

(※イスラエルの人口は、約923万人(2020年7月イスラエル中央統計局)(日本外務省)で、必要な調達量が少なくて済む、という面はもちろんあります。)

 イスラエルの成功のポイントをまとめると、以下のようなことだと考えます。

①ワクチンを早く調達できたのは、交渉力・政治力・おカネの力
②ワクチン接種が迅速に進んだのは、高度なデジタル化、医療情報を含む個人情報の一元管理と
③いまだ戦時体制にある国民の危機意識・共同体への協力姿勢によるもの

①について…イスラエルの早期ワクチン入手は、ネタニヤフ首相が、ファイザー社アルバート・ブーラCEOと直接十数回交渉し、早期にワクチンを入手するため、高値(相場の2倍)で契約を締結するとともに、副反応等の詳細な情報を、ファイザーに提供することを約束したと言われています(Reuter)。世界全体の公共財とも言えるワクチンを、高値で入手するという方策が望ましいものだとは、私は全く思いませんが、秘訣はそういうことだったという現実はあるかと思います。

②について…イスラエルでは、健康情報を含む個人情報が、IDナンバーで国家に一元管理され、カード一枚に、通院入院歴やアレルギー、健康診断、過去のワクチン接種等の情報が入っています。国民は「そういうものだ」と思っているので、日本のようにプライバシー侵害の問題とはならないとのことです。カードを機械に読み込ませて情報がすべて出てくるため、ワクチン接種会場で、医師による丁寧な問診は必要なく、デジタル処理なので、紙への記入などもなく、迅速に進みます。

③について…イスラエルは、今もアラブ諸国との戦時体制にあり、その苦難の歴史からも、国民は「個人の安全や生存は、国家や共同体あってのこと」ということを、身に染みて理解しています。イスラエルの友人の話や、ジュネーブでの外交現場のせめぎ合いを目にして、そのことを実感しました。イスラエルの国民は、個人の権利と自由の尊重を求める一方、国家や共同体の存続に必要なのであれば、個人の負担は当然と考え、徴兵制度もあります。

 イスラエルのほか、新型コロナ対策で評価されている台湾と韓国も、今もそれぞれ、対中国、対北朝鮮と戦時体制にあるということも大きいと思います。多少、強権的なやり方であっても、あるいは、個人のプライバシー(医療情報、行動履歴等)が侵害されても、国民に対する国家の統制が受け入れられやすいのだと思います。

 新型コロナ対策やワクチン戦略には、それぞれの国家・地域(※台湾は、国家ではないので「地域」)と国民の危機意識の大きさが如実に表れている面があると思います。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース