感染収束の切り札のひとつであるワクチンについて考えてみた<前編>

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

五輪参加者への医療資源の提供が優先?

 五輪組織委員会は、看護師500名、医師(スポーツドクター)200名の東京五輪へのボランティア参加を求めています。五輪の選手村には、24時間運営の総合診療所と検査所が設置され、都内約10か所・都外約20か所の指定病院を確保し、選手にコロナ陽性、熱中症などで入院が必要になった場合には、優先的に入院させることにするとのことですが、もし五輪開催中に、東京や近隣県の医療状況が逼迫していたら、どうするのでしょうか?そのとき、国内に多くの入院や治療待機者がいても、五輪参加者を優先させる“命の選別”を行えるとする、合理的理由は何でしょうか?

 もちろん、五輪を開催するのであれば、主催国として医療体制を整備することは必要でしょうし、緊急事態宣言が出されているとはいえ、日本は、世界の中では、相対的に感染者数は少ないといえば、それはそうでしょう。しかし、相対的に感染者数が少なく、そして、人口当たり病床数が世界一なのに、1年4か月経っても、大変残念なことに、十分な病床を確保することができず、入院待機中に亡くなる方が続出しているという現実があります。直接お話をうかがいますが、新型コロナ対応に当たる現場の医療従事者の方の疲弊と緊張は相当なものです。

 「現在休んでいる(=現場を離れている)たくさんの看護師さんがいるから可能だ」ということだそうですが、育児・介護、体調不良等、現場を離れているには、基本、それ相応の理由があります。こうした潜在看護師の活用問題は、以前から指摘されていますが、なかなか解決していないのが現状です。

 本当に、数百名の医療従事者を動員することが可能なのであれば、今現在、医療従事者が疲弊・不足し、入院待機中に亡くなる方が増えている地域に助けに行っていただく、あるいは、大幅に遅れているワクチン接種を進めていただく等、国民が、「やってほしいと切望していること」は、他にもたくさんあるように思います。

 こうした疑問に対する明確な説明が無いことが、国民の不信感をますます増大させてしまっているように思います。「実際に五輪が始まれば、国民は盛り上がるから大丈夫」という見込みもあるようですが、そんな甘いことでいいのだろうか、と思わざるを得ません。

(参考)
世界のワクチン接種状況(総数での比較)
世界のワクチン接種状況(一度でもワクチン接種した人の各国民に占める割合)
COVAX(WHO)
国内のワクチン接種状況(官邸)
国内のワクチン接種状況(厚生労働省)

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