繰り返し来る感染の波は誰のせいでもない 必要なのは、正しくおそれ、前向きであること

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子
豊田真由子
豊田真由子

“正しい理解”に基づき行動する

もちろん、でき得る限り、感染をしない・させない、重症者・死者を出さない、医療現場に負荷をかけない、こういったことは、とてもとても重要です。

メディアで新型コロナについて発信をし、医療現場の方々の奮闘について日々うかがい、親戚や友人・知人に、新型コロナウイルスに感染し、亡くなった方も、後遺症に苦しむ方もおり、その必要性は痛感しています。

ただし、新型コロナのような新興感染症に対峙するに当たっては、科学や歴史に依拠した“正しい理解”に基づき行動すること、適切に設定された目標に向かって進んでいくことが、必要です。そうでないと、不可能な目標に向かって努力をさせられる、あるいは、様々に生じ得る事態について、人々が不要・過剰に責め合い傷つけ合うといった出来事が、多く起こってしまうおそれがあると思うのです。

以前から申し上げていますが、そもそも、新興感染症の感染の波は、大きいもの小さいもの、何度も繰り返し来るのが通常です。「『ゼロコロナ』を目指す」という話がありますが、コロナは「ゼロ」にはなりません。これまで、人類が根絶できたウイルスは、天然痘しかありません(1980年 WHO天然痘根絶宣言)。

2009年4月に最初の患者が発見された新型インフルエンザH1N1については、6月11日にWHOのパンデミック宣言が出され、翌年8月10日に終結宣言が出されましたが、これは、決してウイルスを根絶した(go away)わけではないが、流行状況が落ち着いて、通常の季節風インフルと同じようになり、したがって、パンデミックは終わった(over)と解説されました。そして、この新型インフルエンザH1N1は、現在は通常の季節性インフルエンザと同様に、毎年のワクチン接種の型の一つになっています。つまり、H1N1ウイルスが「完全にいなくなった」わけではなく、人類と共存していっているということなのです。

過去の大規模なパンデミック(中世のペストや20世紀のスペイン風邪等)に比して、現代社会でウイルスによる被害が相対的に少ないように見えるのは、健康・衛生水準の向上や医療・ワクチン等によるものであり、決してウイルスがいなくなったわけではありません。人類が開発を進めて野生生物と接すれば突然変異で銀型ウイルスが出現するリスクは高まり、航空網の発達で、感染は瞬時に世界中に広まります。新型コロナウイルスが収束しても、また別の新たなウイルスの出現は、これからも続きます。

感染症対応は、一筋縄ではいかない

もちろん、政府の政策に対する評価や、他国との比較、例えば、人口当たりの感染者数を、地域的に近接する東アジア・東南アジア・オセアニア(日本に比べて人口当たり感染者や死者数がずっと多い欧米については、比較対象にしていません。)で見たときに、豪、ニュージーランド、台湾、ベトナム等と比較して、日本の状況が多いのはなぜか、といった検討は必要だと思いますが、必ずしもそのすべてが政策の違いを反映しているということでは無いと思います。そして、当初感染抑制に成功したと言われていた韓国も、直近1ヶ月ほどの感染状況は、日本と同程度に増えてきており、感染症への対応というものが、一筋縄ではいかないことが分かります。「政府がちゃんとうまくやりさえすれば、完全に感染が抑えられるはずだ」と考えることが、おそらくそうではないのです。

・アジア・オセアニアの国々と日本の新規感染者数(人口比)
(インドネシア、日本、韓国、タイ、ニュージーランド、豪、ミャンマー台湾、ベトナム、中国)Our World in Dataより

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