新型コロナウイルスの感染者が日本で初めて確認されたのは2020年1月。あれから1年が経過しました。この間、新型コロナウイルスに対する認識はどのように変化したのでしょうか? 感染が確認された当初は、得体の知れないウイルスに多くの人が恐怖を感じたのは言うまでもありません。1年が経過したいま、少しずつ新型コロナウイルスの特性が見えてきています。しかしその一方で感染者に対する差別・偏見が後を絶ちません。
今回取材を受けれてくれた愛知県在住のFさん(30代・専業主婦)の身近で起こった話をご紹介します。
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近所の人が新型コロナウイルスに感染した
2020年12月、Fさんの自宅の2軒隣のAさんが新型コロナウイルスに感染しました。
連日報道されるコロナ感染者のニュースでは市町村名や年代・性別は公表されますが、個人を特定できるような情報は公表されていません。もちろんAさんが感染したことは、当初誰も知りませんでした。
Aさんの家には小学校に通う子どもがいます。ある日Aさんの子どもは学校を早退し、その翌日から長期に渡り休んでいました。
またその日を境に家のカーテンは閉まったまま。とても社交的なAさんは毎朝、近所の方と挨拶をしていたのですが、Aさんの姿を見かけなくなったのです。
そんなある日の深夜、Fさんは外から聞こえてくる大声で目が覚めました。
「おい!コロナ!出ていけ」
「コーローナ!コーローナ!」
Fさんは恐怖のあまり窓を開けて確認することはできませんでした。
翌朝、Aさんの家の壁には「コロナ!出ていけ」と書かれた紙が貼られていたのです。
近所ではAさんが新型コロナウイルスに感染したのではないかと噂になっていました。
子どもは転校・家は売却
FさんにもAさんの子どもと同じ小学校に通う子どもがいます。Aさんの子どもは長期に渡り休んでいましたが、その後2日ほど学校に来たそうです。しかし、2日間の通学を最後に学校に来なくなりました。
Fさんは子どもからAさんの子どもが転校したことを聞きました。
またAさんの家にはその1カ月後、「売家」の看板が…。
FさんはAさんと町内会の役員をしていたこともあり、SNSで繋がっていました。心配になったFさんはAさんに思い切って連絡すると、Aさんは新型コロナウイルスに感染したこと、子どもがいじめにあったこと、コロナの症状はおさまり退院したが精神的に不安定になったこと、誹謗中傷にあったことを話してくれました。
このときFさんは新型コロナウイルスに感染したときの症状に対する恐怖はもちろんですが、それ以外に周りからの差別や偏見に恐怖を覚えました。
現在、Aさんは家族と一緒に他県へと引っ越し、少しずつ落ち着いた生活を取り戻しているそうです。
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正しい知識を持ち「正しく恐れる」
厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症に関する現在の状況とこれまでに得られた科学的知見について「新型コロナウイルス感染症の”いま”についての10の知識」としてまとめ、ホームページに掲載しています。そこには感染リスクが高まる「5つの場面」などがわかりやすく解説されています。
差別や偏見は「感染するかもしれない」という恐怖から起こる場合もあります。新型コロナウイルスに対する正しい知識を得ることで、必要以上に恐れることなく「正しく恐れる」ことができます。
「正しく恐れる」ことは自分や大切な人を守ることに繋がります。誰もが新型コロナウイルスに感染したくて感染するわけではありません。少しずつ特性がわかってきているいまだからこそ、「正しく恐れる」ことを意識してみる必要があるのではないでしょうか。
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▽厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
▽「新型コロナウイルス感染症の”いま”についての10の知識」
https://www.mhlw.go.jp/content/000712224.pdf