ノコで竹を切り倒すと、大量の水が吹き出し、辺り一面、甘い芳香が立ち込めた。切り口から溢れ出たのはシャーベット状にキラキラと輝く水。恐る恐るなめてみると、ほんのり甘い。それは、“お酒”だった-。
竹に詳しい識者でも驚く、まるで昔話の一節のような不思議な体験がツイッターに投稿され、20万いいねを超える話題になっています。リプ欄には「まさに古代から伝わるお酒」「竹取物語改め酒取物語」なんてコメントも…。
ツイートしたのはsawagani550(sawagani550cc)さん。淡路島にある兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科で里山の保全や里地の植物多様性を研究するうち、「そもそも里山が荒廃するのは人口が減っているから。それなのに、どう環境を守るかを外から議論するのは身勝手な気がした」と、7年前に家族を連れて島の中山間地域の農村に移住し、村の一員として里山の管理を担ってきました。
そして、蚊やスズメバチがおらず、クズなどの下草が枯れる冬は「竹刈り」の季節。放置された竹林では、過密化したり、周辺の農地や山林に拡大したりするのを防ぐため枯れた竹や余分な竹を間伐するのですが、そこで出会ったのが、この「奇跡のお酒」だったといいます。
まるでウイスキーのような樽の香りが一面に
-これまでにもこんなご経験が?
「今まで300本以上は竹を刈ってきて、水が入っていること自体はまれにありました。ここはモウソウチクの竹林ですが、過密な竹林では、タケ同士がぶつかり合って穴が開いたり割れたりすることがあり、そのような竹を伐ると、中から雨水に由来すると思われる水が出てきます。大抵、切るとザバーっと出て来て手や服が濡れるので不快なんですが、今回みたいに発酵の香り、アルコールの香りがする液体が出たのは、僕は初めてで…本当に驚きました」
-外から見て、何か違いはあったのでしょうか?
「今年枯れた竹なのか、上は黄色っぽくなっていましたが下の方はまだ青く、全体的にツヤツヤしていましたね。でも切る前は匂いもしないし、水がしみ出ていることもなかったですし、外から見ても分からないと思います」
-甘い香りとありました。
「タケノコみたいな香りというより、ウイスキーのような、樽のような香りでした。味はカブトムシが集まる樹液のようにあっさりしていたので、きっと度数はそんなに強くないんでしょうが、香りはものすごく強くて…。他の節にも溜まっていてまるで酒樽でした。妻に『お酒が出たよ!』と伝えたら『2~3メートル離れたところでも匂う!』と驚いていました。虫食い穴がいくつか開いていたので…本来上に吸い上げられるはずの水が溜まったのか、そこから水が入ったのか…知らないことが多くて、驚くことばかりです」
と話してくれました。
「本当に不思議」識者も驚嘆
竹から出る水といえば、春先にタケノコや若竹の先を切り、袋をかぶせて採取する「竹水(ちくすい)」があり、アミノ酸を多く含むことから化粧品として利用されている例もあります。ですが、今回のケースは枯れた竹。竹の有用性などを調べている九州大学の嶋田暁文教授は「節にたまった竹水の糖分がアルコール化したものだろう」と推測。さらに、竹の桿(かん=空洞の部分)の内側には糖分を含んだ「竹紙(ちくし)」という薄い皮があり(熱燗を竹に注ぐと甘さが増すのはこの糖分が溶け出すため)、嶋田教授自身も切った竹の中の水が腐り、アルコール風の香りがした例は何度か経験したそうですが、「とても口に出来る代物ではなかった」といいます。
一方で、今回の竹は下の方がまだ青く、「どのタイミングでこの状態になったのか、本当に不思議。飲めそうな状態というのが極めて珍しく、相当条件が整わなければ、こうはならないのでは。タンザニアでは筍の先にたまった水を発酵させて作る『ウランジ』という酒もあるが、まさか日本のモウソウチクでも類似のものができるとは…」と驚きを隠しません。
sawagani550さんが竹刈りに精を出していた今月10日の淡路島(洲本市)の平均気温は2.2度。古事記にある“国生みの島”で、山の神様がくれたような奇跡に、「驚くほどの反響があり、竹林管理や放置竹林問題にもっと多くの人が興味を持ってくれたらいいなあと思っています。また、うちの大学院では竹林をはじめ、里山保全の実践的活動もいろいろできるので、入学志願者が増えたらいいのになあと思ってます」と話してくれました。
都会に疲れたみなさん、こんな島暮らしは、いかがですか?