インディゴブルーの夜空に赤く染まった星雲がたなびき、星々が銀色にまたたく。小皿の上に宇宙を再現したようかんは、その名も「天の川」という。京都の老舗和菓子店「七條甘春堂」(京都市東山区)が夏季限定で販売しており、見た目の美しさがツイッターにしばしば取り上げられる。今や店の看板商品ともいえる存在だが、数年前は製造を取りやめる瀬戸際にあったらしい。まるで逆転人生のようなストーリーを紹介する。
七條甘春堂は、約千体の千手観音像や通し矢で知られる三十三間堂の向かいに本店を構える。創業は江戸時代末期の1865年。代々の当主が、せんべいや上生菓子などの新しい商品づくりにいそしみ、和菓子店がひしめく京都にあって確かな地歩を築いてきた。
天の川が誕生したのは約30年前というから、商品としての歴史は意外に古い。販売員の「夏に売り物になる和菓子がほしい」という声を受け、7代目当主の木ノ下亮さんが、職人とともに開発に取り組んだのがきっかけという。
木ノ下さんがイメージしたのは七夕。大地に見立てた茶色いようかんの上に、もち米の粉を混ぜて固めた白い寒天や、青や赤で色づけした寒天を重ねていき、いくつもの銀河が渦巻く夏の夜空を表現した。きらめく星に見えるのは食用の銀箔(ぎんぱく)だ。
次女で取締役の晃帆さん(27)は「甘さを抑えてさっぱり食べられるように仕上げるなど、味にもこだわって作っています」と胸を張る。口に入れると、さっくりとした小豆の食感と、つるりとした寒天ののどごしが心地よくマッチし、ほどよい甘みが舌に広がる。見かけにたがわない、さわやかな味わいだ。
だが、作り手の意気込みとは裏腹に、売れ行きは伸び悩んだ。ネックになったのは、皮肉なことに、その見た目の美しさだった。暗色や淡色が多い和菓子にあって、鮮やかな色合いは客の目に奇抜に映ったようで、「きれいだけど、おいしそうではない」と敬遠されてしまったという。
当然ながら、天の川は毎年売れ残った。社員からは「作るのはもうやめてください」という声が強まっていったが、木ノ下さんは「もう1年」「もう1年」と粘り、低空飛行ながらも販売を続けてきた。