2021年が幕を開け、鉄道設計技士の大森正樹さんは「甲子園駅にタイガース路線図を!」という初夢を思い描く。京成電鉄・柴又駅に自作の「寅さん路線図アート」が19年から掲示されて話題になったのに続き、長年取り組んできた虎マークの「タイガース路線図」が「聖地」の最寄り駅である阪神電鉄・甲子園駅に掲げられるか?そんな「東西をつなぐ寅と虎の夢競演」を願う。東京都出身で兵庫県在住。2日に54歳の誕生日を迎えた大森さんに思いを聞いた。
タイガース路線図は06年のプライベートの年賀状として作った。以来、「毎年が寅年」の年賀状を送る。「作品は仕事とは別のプライベートなことなので、とにかく楽しんでデザインしています。あの虎マークをリスペクトして、毎年色々なアレンジをしています」。大森さんがリスペクトする虎マークの生みの親が、阪神電鉄宣伝課に勤務していた早川源一氏。戦前の球団創設時から虎のマークや球団旗、「Tigers」のロゴ作製に携わったデザイナーだ。
大森さんにとって、創作活動のルーツである早川氏の功績を世に伝えることがライフワーク。同氏が亡くなった76年は、東京の小学生だった自身が阪神を好きになった頃で、不思議な縁を感じる。昨年、大森さんは早川源一研究を通して新発見した幻の「阪神ジャガーズ」マークを復元した。1954年から56年まで、阪神の2軍は「ジャガーズ」という名称だったのである。
大森さんのタイガース路線図が正式にグッズになったのは15年の創立80周年の豪華本「阪神タイガースヒストリー・トレジャーズ」の販売促進用クリアファイル。9ラインあり、投手、捕手、内野手、外野手別に分けた現役選手、現役コーチ、往年のスターらの名が駅名のように記され、歴代監督では「Yoshida-3rd」(吉田義男氏の第3期)など複数回指揮を執ったケースも含めて、初代監督の森茂雄氏(1936年)から当時の和田豊氏まで全て網羅されていた。
そして、21年版も完成した。ドラフト1位の大型ルーキー・佐藤、ロッテから移籍の左腕・チェン、韓国球界から投打の主軸として獲得したロハスJr.やアルカンタラの新外国人、久保田二軍投手コーチら新スタッフも名を連ねた最新バージョンとなっている。
「タイガース路線図は寅さん路線図のような一筆書き構成ではなく、いろいろな線区のネットワークになっているので、線区ごとに歴代監督ライン、1985ライン、など往年の名選手を並べました。路線図づくりはデザインのプロとして角度の統一、文字レイアウトの統一、ラインと文字は重ねない…など、基本を忠実にしています。まず路線図に見えないと、次の驚きにつながりませんから」
大森さんは大学卒業後、生まれ育った東京から関西の会社に就職した。
「理由はいくつかありますが、阪神ファンです、というとすぐ理解してくれますので、便利です。真面目な理由は、公共交通の分野でデザインを活用すべき、との使命感があり、それを期待してくれた会社が大阪にあったこと。また当時も東京一極集中が社会問題で、遷都なども議論されていたが、誰も真剣にアクションを取らないので、ならば都民が出て行ってやろう、と行動に出た。あとは谷崎潤一郎への憧れもありました。谷崎も関東から関西へ移り、新たな美の発見をします。彼は関東大震災がきっかけでしたが、私は行った先で阪神大震災!驚きました」
そんな大森さんにとって、柴又駅に寅さん路線図が掲出されたことは喜びだった。「驚きです。この路線図アートは、美術館に飾られるよりも、駅が最高の場所であると思います。そうした意味でも松竹さん、京成さんには感謝しかありません」。先に作成したタイガース路線図はまだ駅に掲出されていないが、「寅」に続いて「虎」もという悲願がある。
「家(兵庫)と会社(大阪)の間に甲子園、という夢は実現しましたので、次はその甲子園駅にタイガース路線図を。寅さん路線図でハードルは下がったので、ぜひ実現の動きになればと願っています。路線図は日常接する身近な親しまれる存在。そのフォーマットを活用して、楽しい驚き、知的な好奇心を満たすものができたら。柴又駅と甲子園駅がトラ繋がりで姉妹駅になる、そんな広がりになればいいですね」
来年のリアル寅年より1年早く、大森さんはトラの初夢を描く。