旧いクルマ「旧車」の人気…じわじわと広がる メーカーも部品の再生産などで後押し

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 ヨーロッパ車などに比べて、国産車はモデルチェンジのタイミングが早いといわれます。それこそ毎年、いや毎月のように新しいクルマが誕生しています。機械的に熟成が進んだり、また新しい安全サポート装置が開発されたり、クルマの進化は素晴らしいことだと思います。  その結果いまのクルマは燃費がよく、故障も少なく、安全装備も充実していてとてもよくできています。  しかし一方で、昔のクルマが持っていた際だった個性や、メーカーごとのカラーのようなものも薄くなっている、というようなこともあるんじゃないでしょうか。実は近頃、1980年代やそれ以前に街を走っていたクルマ、いわゆる「旧車」の人気がじわじわと広がりを見せています。

旧車の魅力と、維持の難しさ

 旧車。ある一定の年齢の、そのクルマたちが生きていた時代をリアルタイムで知っている世代にとっては、それはそのまま青春の1ページであって、あの時代の空気を運んでくれる愛おしい存在でしょう。しかし、その時代を知らない若い世代の間にも、旧車ファンの裾野は広がりつつあります。これは「単なるノスタルジーにとどまらない魅力が旧車にはあるから」ということでしょう。パワーステアリングやパワーウインドウがなかったり、エアコンがなかったり、マニュアルトランスミッションしか選択できなかったり、さらにシンクロメッシュが弱くてギアが入りにくかったり、クラッチが重かったり。そういうあれこれを考え合わせても、なお魅力的だということですね。

 しかし、維持していくことの難しさも含めて、旧車を取り巻く情勢は決して良いことばかりではありません。まず単純に古い機械なので、それなりに壊れます。そして壊れた場合、部品の入手に苦労します。修理してくれるお店も探さないといけません。メーカーのディーラーも、当時の整備士が世代交代している場合が多く、古い機種の修理に関するノウハウがない、ということも多々あります。

旧車に厳しい法制度

 また、法律や制度も旧車には厳しいです。まず製造から13年経ったクルマ(ディーゼル車は11年)は、自動車税が約15%高くなります。軽自動車の場合は20%です。さらに重量税も13年目と18年目を境に加算されます。これはグリーン化特例ということで、燃費や排ガスなど古いクルマは環境に対する負荷が大きいからペナルティを科す、という理由です。

 しかし、古いクルマを乗り換えるのが本当に環境に優しいのか、という点に関しては疑問もあります。新しいクルマを一から作るためには、製造工程で多くのエネルギーや資源を消費し、またCO2なども排出されます。まだ乗れるクルマをさっさと廃車してしまうのが本当にエコなのか、ということですね。

 なお、日本では古いクルマに乗り続けると税金が高くなりますが、例えばドイツでは、反対に30年以上乗られてなおかつ一定の条件を満たしたクルマは、ヒストリックナンバーが適用され、優遇される制度があります。

 ポルシェ911というと、そんなドイツを代表するスポーツカーですが、1963年に製造が始まって以来、2017年には100万台を達成しました。そしてこれまでに造られた911の7割はいまも現役で走っている、といわれます。もちろん部品も手に入りますし、修理のサービスも受けられます。

日本のメーカーにも新しい流れが生まれつつある?

 実は日本車でも、一部の車種に関してはこういうサービスを行っているメーカーがあります。たとえば1990年に発売されたホンダのNSXというクルマは、2040年まですべての部品の供給を保証していて、リフレッシュセンターという部門で新車と同じ状態まで整備してくれるプランが用意されています。これはこのクルマが発売されたとき、量産車では世界初のアルミモノコックボディを採用していて「アルミモノコックは35年持ちます」と言ったので、その言葉を守る意味でこういう体制を作り上げたのです。

 ホンダではこのほかにも、軽自動車のBEATというクルマの部品の再生産を発表するなど、自社の旧車とユーザーを守っていこうという取り組みを展開しています。今後S2000などの車種にも広がっていくのではないかと思われます。

 また、マツダも初代のロードスターという車種の部品の再生産を発表し、現在そのサービスが進行中です。

 これらの部品の再生産は、実はメーカーにとってはかなり大変なことです。当時の部品を造っていた取引先などにはもう存在しないところも多く、新たに工場を探して依頼したり、ものによっては再度図面から引き直して、ということもあると聞きます。さらに電子部品、コンピューターなどはもう同じものが造れないので、書き換え可能な汎用チップの利用も模索中だったりするようです。

 特別に大きな収益が見込めるようなものではないでしょう。しかし旧車ファン、ユーザーの声を拾い上げ、寄り添ってくれるという流れがいま徐々に広がりつつあるのではないでしょうか。

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