“農村のフェラーリ”ホンダの軽トラック「アクティトラック(以下アクティ)」が、2021年6月に生産を終了する。走りを重視するホンダならではの1台だが、販売不振が原因でラインナップから消える。「現状では、アクティに代わる軽トラを作る予定はありません」(ホンダ広報部)ということで、あと1年半ほどで全国のホンダディーラーの店頭から、軽トラそのものが消滅する。
「アクティ」最大の特徴は、エンジンを荷台下に配し後輪を駆動させるミッドシップのレイアウト。フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーと同様、クルマの前後の重量配分を最適化し、走行安定性を確保する設計思想に基づいたものだ。荷台が空でもエンジンの重みで駆動する後輪が空転しにくく、カーブでもしっかり路面をとらえてスムーズに曲がるスグレモノ。4WDタイプ(5速マニュアルのみ)は、左右のタイヤに回転差が発生した際、自動で作動するホンダ独自の「リアルタイム4WD」システムを採用していて、クルリと曲がる。
さらに、エンジンが運転席から離れているため、振動や騒音が比較的穏やかなことも大きな利点といえよう。ダイハツ、スズキの軽トラは、エンジンが助手席の下に置かれているため、乗用車から乗り換えると、時速60キロを超えるあたりからのごう音に驚く。「アクティ」ももちろん、乗用車よりエンジン音は大きいが、初めて軽トラを買う方にはおすすめできるレベルの音だ。本来、作業用のクルマのはずなのに、乗って楽しい1台。農村はもちろん、アウトドアや都会でも十分活躍してくれるはずだ。
ところが、「アクティ」の弱点は、まず第1に、売れないこと、なのだ。19年の販売台数は別表のとおりである。ダイハツ、スズキは他社へのOEM(相手先ブランド生産)の台数を含め、2社でホンダの10倍以上を販売している。加えてこの2社は東南アジア、中国などで現地生産も行っていることから、世界でははるかに多い台数を売りさばいていることになる。潤沢な開発予算があるのだろう。新たな衝突防止機能や派生車種なども豊富に用意されていて、その点でも「アクティ」を大きくリードしている。
「アクティ」の燃費基準は、一部を除いて「平成19年排出ガス規制」(JC08モード)にとどまっている。衝突防止機能などの安全装備も、ライバル車に比べると見劣りする。ホンダ広報部によると「新たな排ガス規制や安全装備などに対する開発費用をまかなえないため、苦渋の決断でしたが、生産を終了することに決定しました」。来年6月まであと1年半弱。新たに買うにせよ、買い換えるにせよ、考える時間はまだありそうだ。