常磐道あおり運転殴打事件…被告はなぜ実刑判決にならなかったのか 被害者と和解成立の可能性も

小川 泰平 小川 泰平
常磐自動車道で昨年8月に起きたあおり運転殴打事件…道路交通法に「あおり運転(妨害運転)罪」が新設される契機の1つとなった(yamasan/stock.adobe.com)
常磐自動車道で昨年8月に起きたあおり運転殴打事件…道路交通法に「あおり運転(妨害運転)罪」が新設される契機の1つとなった(yamasan/stock.adobe.com)

 茨城県内の常磐自動車道で昨年8月に起きたあおり運転殴打事件などで、強要と傷害の罪に問われた会社役員宮崎文夫被告(44)に水戸地裁は2日、懲役2年6月、保護観察付き執行猶予4年の判決を言い渡した。求刑懲役3年8月に対し、1年2月も軽減された執行猶予付き判決となり、宮崎被告が実刑にならなかったことについて、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し「被害者との示談、和解が成立している可能性」を挙げた。

 小川氏は「懲役3年以上だと執行猶予はつかない。検察側は実刑にしたかったが、判決が『2年6月』と求刑より1年2月も減らされた背景には、被告と被害者との間で和解等の動きがあることを意識したと考えられる。いくら、本人が事実を認めて反省しているからといっても、それだけでは求刑がこれだけ判決から減らされることはない」と指摘した。

 宮崎被告と被害者たちとの間で何があったのか。小川氏は「被害者の1人とは既に賠償金90万円を支払ったという話がある。さらに別の被害者とも示談、もしくは和解が成立したか、示談金を払う約束ができた等が考えられる。その上で、被害者感情を汲んだ判決が出たことが考えられる」と推測した。

 この事件はメディアで流れた映像によってその悪質さが拡散し、道路交通法に「あおり運転(妨害運転)罪」が新設される契機の1つとなった。だが、世論に反して、判決には執行猶予が付いた。

 裁判長は起訴された3件のあおり行為について「運転を妨害されたと感じ、やり返そうという動機は自己中心的で身勝手」としたが、実刑にした場合、同種事案と比べて量刑が重くなることなどを考慮した上で「事件の背景に性格の偏りがある。社会性を身につけさせるための指導が必要」として、「保護観察付き」の執行猶予判決にした理由を述べた。

 小川氏は「今後、同様の犯罪の抑止力として検察側は実刑が妥当と考えた上での求刑であったと思う、だが、今回起訴された事件は、妨害運転罪ができる前の事件であるから、当然ながら適用されない」と説明した。同事件を契機に生まれた新たな罰則が、皮肉にも当の被告には適用されないという結果になった。

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