今や地域社会のインフラとして定着している24時間営業のコンビニ。多くのオーナーが頭を抱える問題の一つが、客のトイレ利用にまつわるトラブルだ。新型コロナウイルス感染防止の観点から利用を中止した店では日々のトラブル処理から解放されたが、「第1波」後に利用を再開した店は再び、気の重い日々を送っている。「あなたの特命取材班」にもオーナーの嘆きの声が届いている。水に流せないコンビニトイレ事情を探った。
5月中旬、幹線道路に面した福岡県内のローソン。スーツ姿の男性が一直線にトイレへ。使用後は手も洗わず店内をうろうろ。何も買わずに立ち去った。
「こういう人、よくいるんですよ」。客のトイレ利用を約3週間ぶりに再開した途端、戻ってきた日常にオーナー夫妻はぼやく。この店のトイレ利用者は1日400人ほど。うち半数はトイレだけ使って何も買わない。トイレットペーパーは1日4~6個消費し、月4万~5万円かかる上下水道代の一定割合をトイレが占める。何より1日数回の清掃が必要だ。
それでも、清掃中に「なぜ今するのか」と文句を言われる。酔客の粗相への対応もつらい。長時間こもる客もいて、スタッフがトイレを我慢することもある。
オーナー夫妻は「コンビニの方針とはいえ、トイレ開放が当然の社会になり、マナーを守らない人が増えている。うちは公衆便所ではないし、せめて何か買ってくれれば…」と訴える。
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ローソンが店内のトイレの「開放宣言」をしたのは1997年。客の利便性向上と集客効果が狙いで、業界での先駆けだったという。当時を知るオーナーは「客は使わせてもらってありがたいという姿勢だったし、何か買ってくれる人が多かった」と振り返る。
当時のトイレはスタッフ用としてバックヤードの事務所内にあったが、新設店舗は客の利用を前提に、独立して配置している。温水洗浄便座も付き、さらに使い心地は良くなった。
それと反比例するように、トイレを巡るトラブルは増えている。広島県のあるセブン―イレブン。オーナーの男性(50代)は、信じ難い光景を何度も目の当たりにしてきた。
汚く使われるだけでなく、タンクにごみや汚物を押し込まれていたことも。近くで大規模イベントがあれば長蛇の列ができ、殺気立った客同士の口論もあった。防犯上、深夜帯にトイレの利用を断ると、腹いせに嫌がらせに遭ったことが何度もある。男性は「ここまでしてトイレを貸さないといけないのか」と嘆く。
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コンビニは近年、膨大な店舗数や多様なサービス、24時間営業といった形態から、地域に必要不可欠な存在と認識されている。
経済産業省が2月にまとめた有識者検討会の報告書は「防犯や見守り拠点、災害時の物資供給拠点など社会的なインフラとしての機能が求められるようになっている」と明記している。
コロナ禍でコンビニトイレが閉鎖されると、特命取材班には「安心して仕事をするため、トイレを使えないのは困る」(福岡県内の30代女性ドライバー)といった声が寄せられた。
街のトイレはコンビニだけではない。例えば福岡市内の公園には、380カ所に計499棟(4月末現在)ある。あくまで公園利用者向けではあるが、管理費は年に計約2億円に上るという。
夜、人けがない公園のトイレを使うよりも、明るくて店員がいるコンビニのほうが安心なのは当然だろう。それでも前出の広島県のオーナーは納得できない。
「社会のインフラと持ち上げられ、何もかも背負わされる現場は苦しい。本当に必要なら、行政からトイレットペーパーの支給や水道代補助などがあるべきではないだろうか」(四宮淳平)
「清掃に負担感、コンビニの本部や自治体のサポートが必要」
コンビニ事情に詳しい武蔵大の土屋直樹教授(労使関係・人事管理)の話 コンビニは全国各地にあり、公共的な役割を果たしている側面がある。それに伴い、各店のサービスは次々増えているが、スタッフの賃金上昇や他店との競合などから店の利益は下がる傾向となっている。トイレ清掃の負担感も増しているのではないか。一方的に『社会のインフラ』と言うだけではなく、経営を維持していくためにコンビニの本部は支援をするべきだし、自治体によるサポートもあっていい。
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