障がいや生きづらさを抱える人による「アート作品」…個性あふれるデザインが商品に

桑田 萌 桑田 萌

 ゆるくかわいらしく、素直で独特の筆致で描かれ、見るものを優しい気持ちにさせてくれるデザインの数々。これらは、「工房はんど」(大阪府富田林市)で作られているテキスタイルデザインだ。

 1000以上のデザインが生み出されているこの工房には、ある特徴がある。それは、「クリエイターが全員障がいや生きづらさを抱えている人たちである」ということだ。アート作品を作り、企業や店舗で商品化する。社会的に認められた彼らは、今までにない自信をつけて、さらに力を発揮。そんな場が作られている。

 同所が当てはまる「就労継続支援B型」タイプの事業所は、利用者に合わせた働きを実現できる場だ。その中でも「工房はんど」では、その働きを「アート活動」に注力。利用者は絵を描いたりデザインを作ったりし、それを企業や店舗に提供することで、報酬を得る。

 「一般社会で働くことが難しい彼らは、今までの経験から自己肯定感が低いことが多い。しかし、ここで作品を作り商品にすることで、『自らの作品が世間に認められた』と自信をつけるんです」(代表・安野壽さん)

  とはいえ、全員が最初からうまく描けるわけではない。特に知的障がいのある利用者の中には、じっくりと絵を描く経験が少ないことから、「自分は描けない」と思い込んでいる人も多い。

  利用者のTAKUOさん(仮名)もその一人だった。彼は絵どころか、日常生活で嫌なことがあれば、事業所へ来ず、自分の落ち着く場所を探して過ごすことも多かったという。 

 しかし、あるときTAKUOさんが色塗りをしたことを機に、安野さんは「自力で描けば、もっといいものになる」と確信。絵画に取り組ませた。

 「彼は自分で『描けない』と思っているので、最初は嫌がって逃げていました。しかし時間をかけることで、徐々に向き合ってくれるようになったんです」

 その結果、イルカの絵が完成。写真を見ながら、職員から配色や塗り方のアドバイスを受け、描き上げた。これでも十分完成度は高いが、安野さんは「もっと描けるはず」と感じた。

 「彼は、ギザギザ線や波線が苦手。でもマスターすれば、もっとたくさんの絵が描ける。だからゆっくり時間をかけて実践を積みました」

 こうして次に完成したのが、キイロスズメバチの巣の絵。ギザギザな部分を巧みに描くことで、完成度は抜群に上がった。

 「デザインや色塗りなど、すべて自力で完成できたんです。作品をみたとき、本当に感動しました」

 「工房はんど」で絵を描き、デザインを行うことで、自治体や企業のコンペティションで受賞するようになったTAKUOさん。アートで自信をつけ、今や事業所で落ち着いて過ごせている。安野さんは、「このような変化は彼だけではない」と話す。

 「自信がなく小声だった人が、大声になる。精神状態が安定しなかった人が、笑顔を取り戻し会話が弾むようになる。他者の言動に過敏に反応しやすかった人が、相手を評価できるようになり、優しく接することができる。アートのおかげで、みんな元気になるんです」

 アートを活用する上で安野さんが心がけているのは、利用者とのコミュニケーションだ。それは、健常者同士で行う「昨日何してた?」といった通常の会話ではない。利用者の作品に「すごいね」と話しかけ、アートを媒介にする。コミュニケーションに長けていない利用者でも、豊かな会話が生まれ、自信がつく。

 安野さんの夢は、「『工房はんど』をデザインに特化したブランドにすること。彼らにしか描けないものがあるはずだし、僕はそれに大きな価値を感じているんです」

 「工房はんど」では今、利用者が作ったカードケースをクラウドファンディングで販売している。それぞれの持ち味が存分に生かされた、魅力溢れる商品をぜひ使ってほしい。

■クラウドファンディング実施中(2020年8月30日まで)
https://www.makuake.com/project/kobohand/

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