「クロックポジション」という言葉をご存知でしょうか。目が不自由な人でもテーブルの上の物の位置などが把握できるよう、どこに何があるのかを時計の短針にたとえて知らせる方法です。近年、ドラマや映画などで描かれているとはいえ、実社会ではまだまだ…。そんな中、サイゼリヤを訪れたある全盲の女性への“神対応”が、ネット上で感動を呼んでいます。
◆ピザは12時、サラダは3時…
ツイッターユーザーのさくらsan(@sakura0221tea)さんが今月29日、4か月ぶりに訪れたサイゼリヤでの一コマ。「嬉しくてお料理たくさん注文しちゃったんだけど、料理を運んできてくれた大学生くらいの男の店員さんが、[ピザは12じ、サラダは 3じ、チョリソーは10じ方向に置きますね]って説明してくれて、もう、感動しすぎて涙出そうでした」とツイートしたところ、瞬く間に拡散され、丸1日もたたないうちに7.5万リツイート、38.8万いいねを集めています。
リプライ欄には「時計に例えれば分かりやすいんですね」「気配りができるってこういうことだと思う」「まさに言葉で表すバリアフリー」といった称賛の声のほか、さくらsanさんが全盲でもツイッターを駆使していることへの驚きや、日常生活、嬉しい配慮は―といった質問も相次ぎました。
――どんな状況だったのでしょう?
「お店には主人と娘の3人、家族で行ったのですが、店員さんには特別こちらから何かを伝えたわけではありませんが、入店した時に白杖(視覚障害者が使う白い杖)をついていたので、たぶん気付かれたのだと思います。あまりにも自然な説明でびっくりして…。お若い方でしたし、きっと、例え知識として知っていたとしても、実践するには勇気がいったでしょうに。本当にうれしくて、サイゼリヤさんにお礼のメールを送ってしまいました(笑)」
サイゼリヤ広報室によると、同社では数年前に視覚障害の来店者への「接客ガイド」を制作し、全店(当時)に配布。その中に禁止事項や注意事項とともに、クロックポジションについても触れられているといいます。「このクルーは特に意識が高かったと思いますが、お客様に大変喜んで頂きまして、うれしく思います」(担当者)とも。
◆料理が来たと気づかず「食べるか触るかしないと場所が分からない」ことも
さくらsanさんは、先天性弱視でしたが8年ほど前に緑内障が進行し、全盲になったそうです。まだ視力があるころには理学療法士の資格も取得し、全盲になってからもしばらく働いていました。今は主婦をしており「一人で慣れた場所を歩いたり、音声読み上げ機能を使ってiPhoneを使ったりできるようになりましたが、初めは訓練を受けて一つ一つできることを増やしてきました。それでも、誰かの手を借りなければ困ることもたくさんあります」と話します。
これまでもクロックポジションで説明されたこともたまにあるそうですが、「今回のような年頃の方にそういう心配りは受けたことがなかったので感動して…」とさくらsanさん。逆に困った経験としては、「視覚障害者同士で居酒屋などに行ったとき、まとめて注文した料理を次々にテーブルに置かれてしまい、食べるか触るかしないと確認できなかったり、黙って置いて行かれたためお料理が運ばれてきていることにも気付かなかったりしたときもありました」とも。「例えば食事なら、お料理や飲み物を運んできたとき、それが何か▽どこに置くのか―や、背が高くて不安定な入れ物、火傷をする可能性のある鉄板なども伝えてもらえたら、安心して楽しく食事ができると思います」と話します。
普段の生活ではiPhoneのボイスオーバーという読み上げ機能を駆使してインターネットで買い物をしたり、SNSで友達とつながっているといい「実際に街へ出かけて買い物をしたり、自由に好きな時に人に会いに行ったりすることがしにくい視覚障害者にとって、今や欠かせない存在です。技術もだんだん進歩していますし、是非、こういう機能があるということを、たくさんの方に知っていただきたいです」とさくらsanさん。
「まさか、これほど反響を頂けるとは思ってもいませんでした」と驚きつつ「関心をもって頂けたり、参考になったと言ってくださったり、心の暖かい方がとても多くて嬉しくなりました。そして、私たち当事者が正しい情報を伝えていくことで、もっとみんなが暮らしやすい社会になるんだろうなと感じました。本当にありがとうございます」と話してくれました。
全国ユニバーサルサービス連絡協議会https://universalservice.jp/