かつて神戸の玄関口だったJR神戸駅には、皇室の方々が利用する貴賓室があった。1972(昭和47)年の新幹線開通とともに新神戸駅が開業すると、玄関口の役割もそちらへ移り、貴賓室は駅長室として用途を変える。その後、一帯は商業施設となり、貴賓室はある飲食店の店内で保存、一般に公開された。今では「貴賓室のある店」として高い天井や豪華なシャンデリア、大理石の暖炉に囲まれて優雅に食事ができると、女性客を中心に人気という。
ところが公開当時、ガラスの壁に囲われ「玉座」とされた2脚の肘掛け付きの椅子がなくなっている。どこへいったのだろう?調べてみた。
神戸駅の玉座が、京都に現わる?
JR西日本は「調度品の一部を保管している」と説明したが、地元神戸駅周辺の住民らの間では、「神戸駅の歴史を語る貴重なもの」「神戸駅で展示したい」「玉座はどこへ?」と、さまざまな思いや憶測が飛んだ。そこに飛び込んできたのが、「京都鉄道博物館にあるらしい」という情報だ。
どうやら昨年2019年5~7月に開催された企画展『鉄路を翔けた鳳凰〜お召列車と貴賓室〜』で、京都駅や新大阪駅の貴賓室にあった調度品と並び、神戸駅の玉座らしき肘掛けの付いた椅子も展示されていたという。
「まさにそれが玉座では?」
真偽のほどを確かめるべく、京都鉄道博物館の展示資料室に聞いた。
京都にあった玉座!ただし……
「たしかにJR神戸駅にあった天皇皇后両陛下がお座りになったであろう椅子は、当博物館に収蔵されています」とあっさり認めた。ただし、玉座とは天皇皇后両陛下だけに使われる座具のことを指す。
「当館に収蔵される椅子が、皇室の方々が利用する貴賓室に置かれていたことはたしかです。ただ神戸駅の場合、天皇皇后両陛下専用の座具として使われたかどうか。つまり、他の方もお座りになったかも知れません。今となっては、そこが確認できないのです」と語る。
昨年の企画展では、博物館で展示した駅のうち「玉座」として展示したのは、両陛下専用の座具と確認された新大阪駅のもののみ。あとの駅は、神戸駅と同様証明できなかったそう。「そのため、調度品として展示しました」。
しかしながら神戸駅にあった肘掛けの付いた椅子2脚は、現在京都鉄道博物館にあることがわかった。他には肘掛けのない椅子が数脚とテーブル、花びらのデザインのランプと花台が収蔵、保管されている。同じく企画展で展示された屏風は、現在新神戸駅にあるという。
JR西日本の手から離れているため、神戸駅にこれら調度品が戻ってくる可能性は少ない。とはいえ神戸駅は1874(明治7)年に開業した歴史のある駅舎だ。内部は白壁に黒色を効かせたモダンで華麗なデザインで、近代化産業遺産にも認定されている。当時の雰囲気を味わいに、駅舎や貴賓室を楽しみに訪れてみてはいかがだろうか。