コロナ禍のステイホーム期間中、Twitterのリツイートや「いいね」ごとに何かを成し遂げるチャレンジが広がりました。その一つ「1いいねで1日成長する赤ちゃん」の連載がこのほど、最終回を迎えました。作者曰く「成人しました!ぐらいかな」と思っていたそうですが、集まった「いいね」は29万超、年に換算すれば794歳を超え…。「正直、頭を抱えました」と打ち明けるラストは意外な展開を迎え、さらに書籍化も決定。そこには温かい家族の物語もありました。
連載を始めたのはイラストレーターおおのたろうさん(33)。全国に緊急事態宣言が発出された4日後の4月11日夜に「自分なら赤ちゃんかな、と何の気なしに」投稿したところ、丸二日もたたないうちに26万を超え、ニュースなどでも話題になりました。
赤ちゃんは毎日午後8時に1歳ずつ年を重ねていき、少年になり、青年になり、家族を持ち…。恩師、妻や子どもたちの存在、小さい頃からなぜかずっと側にあるおもちゃ。諦めた夢が思わぬ形で叶ったかと思えば砕け散り、もうお互い真っ白な頭になった小学校の頃の親友との再会も…。フォロワーも4.8万人に増え「胸がぎゅっとなる…」「まさかここで伏線が回収されるなんて」と一緒に人生を歩み、6月19日、94歳で家族に見守られ息を引き取りました。これで終わりかと思いきや翌20日には700年後の驚きの姿が。
――まずは、連載を終えられて今のご感想を。
「最後まで描くことができて、ほっとしています。最初に沢山のかたに見て頂き、また最後にも多くの方に見てもらえて嬉しいです」
――生涯を毎日1年ずつ描く…とてつもないですが、苦労された点は。
「私は今33歳ですが、その歳までは自分の経験から空気感を掴めるのですが、40代以降がとても難しかったです。ある時、一気に物語の最後までの簡単なあらすじを書いたのですが、結局、毎日年を重ねるごとに主人公の『ぼく』の人生の行方も変わり、毎日投稿ギリギリまで描いていました。自分の周りの人や親、祖父母の姿、を私なりに汲み取って描いてきましたが、いざ『ぼく』が40代以降になると、不思議とその歳なりの考えになっていて、不安はなくなっていきました」
――「ぼく」の人生はごく普通なようでいて、とても親近感があるというか、自分に重ねて読む方も多かったように感じます。
「登場人物に具体的なモデルはいませんが、なるべく物語には嘘がないようにしました。フィクションなので全部嘘と言えば嘘なのですが、面白くするために突飛なことをしたり大袈裟な振る舞いをしないように気をつけました。淡々と、僕の短い人生の経験の中ではありますが、出会った人や出来事、かけられた言葉などを思い出しながら、その中で感じた本当の気持ちをのせて書きました」
――子どもの頃のおもちゃや友達、座右の銘などの伏線も見事に回収されました。
「毎回のストーリーはほぼ、その場その場で考えていたので、伏線も特に考えていませんでしたが、不思議と全部その時その時々で繋がっていきました。唯一、最後のくだりだけは結末を決めていたので、ちょっと驚かそうと思って入れたのですが、あとは頭で考えるより『ぼく』の歩む方向に自然に任せていたので、毎日ドキドキとヒヤヒヤでした(笑)」
――多くの反響がありました。
「最後まで有言実行できたことが一番嬉しいです。そして色んな方から感想を頂けて、その中でも『人生を良いように考えられるようになった』『親との関係を見つめ直したい』『自分の人生を好きと思えるようになった』などお便りを貰えて、描いてよかったー!と思いました」
さらに、話題になったことで出版社から声がかかり大和書房から「きみの中のぼく」という題名で書籍化され、7月23日に発売が決まりました。「実は、弟が同社に所属しているのですが、10年前、ちょうど弟の就職が決まった頃に『いつか一緒にオリジナル作品を出版できたら良いな』と話していて、僕にとっても一つの夢だったんです」とおおのさん。
自身も幼い頃から絵が好きで、「特に4、5歳くらいに出会ったドラゴンボールから影響を受けて絵を描き、ずっと描いていた」そう。その後中学生になり本格的に音楽にハマリ、ギターやバンドをし、先生に音楽の良さを教わり、「夢は東京ドームを埋め尽くすようなライブをしたい!と思ってました」とか。でも、その延長線には必ず「音楽をしてCDアルバムのイラストを描きたい」など絵に関わる事がゴールにある事に気づき、イラストの専門学校に進学。今は1児の父でもあります。
コロナ禍でネット上で生まれた赤ちゃんがつむいだ、人と人との物語。「僕にとってのオリジナル第一作品目であり、兄弟で作る作品でもあり、今回の書籍化は本当にいろんな意味で嬉しいです」とおおのさん。装丁にもこだわり、Amazon初回限定でしか読めない描き下ろしエピソードも。「また物語作品を描いてみたいと思いましたし、他にも楽しんでいただけるような本づくりをしていきたいと思っています」と話してくれました。