結婚20年目を迎えたAさんは、これまで夫の転勤に合わせて何度も引っ越しを繰り返してきました。しかし、数年前の転勤では、子どもたちの学校の都合を優先し、夫が単身赴任を始めることに。Aさんは子どもたちと共に住み慣れた町に残り、それぞれ別々の暮らしが始まりました。この選択が、結果的に夫婦関係を大きく変えることになったのです。
単身赴任中、Aさんは夫の住まいを定期的に片付けに訪れていました。ある日、いつものように家の整理をしていると、そこには、夫と見知らぬ女性が楽しそうに写っていました。Aさんの胸に走った痛みは、想像以上に鋭いものでした。
しかし、その痛みはやがて冷静な思考に変わりました。Aさんは写真を元の場所に戻し、何事もなかったかのように家を出ました。しかし、その日を境に、彼女の中である計画が練られ始めます。
それから約5年、Aさんは夫の浮気に気づかないふりを続けました。夫が送金する生活費は全て貯金に回し、自身はスキルアップを目指してパートタイムの仕事を始めるなど、未来への準備を淡々と進めていきました。
夫の単身赴任が終わったのは、折しも結婚生活20年を迎えたときでした。久しぶりに家族全員が揃った食事の席で、Aさんは静かに立ち上がり、夫に離婚届を差し出しました。浮気がバレていると気づいていなかった夫も、Aさんが用意した証拠の数々を目にして言葉を失うほかありませんでした。
Aさんのように夫が浮気をしても知らないふりをして、淡々と離婚の準備をするケースは多いのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を伺いました。
ーAさんのようなしたたかな妻はいるのでしょうか。
最初からしたたかだったかどうかはわかりませんが、Aさんのように浮気を見て見ぬふりして、離婚の準備を淡々とする人はいます。浮気を知った当初は、怒りや悲しみといった感情が沸いてくるものの、冷静に考えると夫に対して優位に立てると考えるようになるようです。
ー優位に立てるとは?
単身赴任であったとしても、あくまでも妻の座についているのは自分であるという自負からくるものでしょう。子どもの世話をして家を守っているのは自分であり、浮気相手にしばらく夫の世話をさせてあげているというくらいの気持ちを持つ人もいます。
浮気の証拠を固めていけば、いつでも妻側から離婚を切り出せます。夫と浮気相手の生殺与奪の権利を握って、今後の人生の選択を優位に決められる形です。単身赴任先で浮気相手と羽を伸ばしているうちに、Aさんのように奥さんが淡々と準備しているかもしれないので、お気を付けください。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。 大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。