肺炎につながるとされる新型コロナウイルスの感染が国内で広がっている。流行している中国との接点が見当たらない感染者も増える一方、個人でも手洗いなどの対策がすすめられている。人が集まる行事などの中止も相次いでおり、日本の経済活動にも影響が出そうだ。そんな中、株式市場で急速に関心を集めているのが「テレワーク」関連銘柄だ。すでに値上がりが目立つ銘柄も散見され、株式市場の新たなテーマに浮上した。
これまで会社でしていた仕事を自宅でできるなら、見知らぬ人と数センチの距離まで接近する満員電車という空間での、感染のリスクを回避できるというわけだ。際企業でもすでにNTT(証券コード9432)グループは国内で新型コロナウイルスの感染が増えているのを受けて、従業員に対して時差出勤やテレワークの推奨を始めた。NTTドコモ(9437)やNTTデータ(9613)国内に約20万人の従業員を抱える巨大な企業グループだ。テレワークを始めるために必要に新たな需要が発生するなら、恩恵を受ける銘柄もあるというわけだ。
まず動きが出たのはブイキューブ(3681)や、サイボウズ(4776)といった関連ソフトウエアのメーカーだ。ブイキューブは先週末の21日まで2日連続でストップ高と急伸した。社内の情報を、社外に設置したパソコンに共有する「グループウエア」を提供する。自宅や出先でも会社と同じ環境をパソコン上に作れるというわけだ。また会社にある自分用のパソコンと同じ状態の画面を、自宅などのパソコンに表示する「仮想デスクトップ」という方法でテレワークの環境を提供するアセンテック(3565)、クラウドサービスのサーバーワークス(4434)などにも関心が集まった。
テレワークはノートブック型パソコンの性能向上と、高速度大容量通信(いわゆるブロードバンド)の普及を背景に、働き方改革につながるとして一部で導入が進んでいた。一方で普及をはばんでいたのは昭和時代の働き方を変えまいとする、日本企業のカルチャーだという。東京都も東京五輪・パラリンピックを控えてテレワークの普及に取り組んだが、なかなか普及しなかった。ただ感染症が流行することへの警戒感から、従業員の健康を経営目標の1つに掲げる「健康経営」の看板がテレワークを普及させる可能性が出てきた。だとすると新型コロナウイルスの観戦拡大が1段落しても、息の長いテーマとして続く可能性がある。
日本ユニシス(8056)は自社への導入の経験から、中小企業や大企業向けにテレワーク化のコンサルを始めた。テレワークが普及するとネットのトラフィック(データ通信量)が全体的に増えるので、NTTやKDDI(9433)などの通信会社にも追い風だ。さらにNEC(6701)や富士通(6702)のように、データセンターと付随するサービスを提供する会社でも、テレワークの普及は追い風になるだろう。こうした大型株に現時点で動きは見られないが、今後は下値を拾う理由にされる可能性がある。
一方で、このほか新型肺炎の感染懸念で買われた銘柄に目を転じると、重松製作所(7980)、興研(7963)、川本産業(3604)などマスク株は、2月3日前後に株価がピークを打っている。国内では依然としてドラッグストアなどでマスクの品薄状態が続いているが、機会損失と捉えられる可能性もある。今後は増産したマスクが市場に出回ることが想定されるが、それで新たに発生する在庫がきちんと消化できるかが鍵になるだろう。
大幸薬品(4574)や中京医薬品(4558)など空気中の薬剤を放出してウイルス対策する製品を販売している銘柄についても、マスク同様に2月3日前後に株価はいったん天井を打ったとみられる。今後の上昇局面では、戻り待ちの売りなどが気になる。ウイルス検査で使う試薬を製造するタカラバイオ(4974)のほか、経過観察などで必要な血液検査の機器と試薬を販売するシスメックス(6869)など医療関連メーカーの株価も、ひとまず今回の中国での「特需」を織り込見つつあるようだ。
そうした観点からも持続性があるテーマとして、テレワーク関連株に関心が高まっている面がある。今回のテレワーク推奨が広がると同時に進んでいるのが、人が多く集まるような行事を中止するという動きだ。自民党大会の延期などが報じられて話題になったが、企業でも会議を延期したり、中止して資料の回覧に切り替えたりする動きもあるようだ。これを機にムダな会議が減るのなら、かねて課題とされている企業の生産性の低さも、多少は改善されるのかもしれない。