大阪のJR環状線・玉造駅から徒歩数分の場所に、「ペットとの共生」を謳った住宅型有料老人ホームがあります。名前は『ペピイ・ハッピープレイスTAMATSUKURI』(以下、PHP)。運営母体は『新日本カレンダー株式会社』です。
動物病院で『PEPPY』という通販情報誌を見たことはありませんか? 獣医師の視点も入れながら、犬や猫との生活を楽しく、安全・快適に送れるよう考えられたペット用品が多数掲載されていますが、このPEPPYを発行しているのが新日本カレンダー。ほかにも『大阪ペピイ動物看護専門学校』を運営したり、動物の高度二次診療病院である『ネオベッツVRセンター』を工場跡地に誘致したりと、「人と動物の共生」をテーマにしたさまざまな事業や取り組みを行っている会社です。
PHPの入居条件は「60歳以上でペットを飼っている、もしくは飼うことを希望している」こと。施設に入るには愛犬や愛猫を手放さなければならないと思っている人や、高齢を理由にペットを飼うことをあきらめている人にとっては、なんともうれしい条件です。犬は体重が30キロ以下で2頭まで、猫は3匹までという条件もありますが、これらに関しては相談に乗ってもらえそう。
「一応ルールはありますが、入居者様がペットと一緒に充実した時間を過ごせるように、というのが私たちの願いですから、可能な範囲で対応していきたいと考えています」(ゼネラルマネージャー・平尾泰久氏)
居室にはさまざまな工夫がなされています。まず、足腰への負担を軽減する滑りにくい床材を使用。2部屋ある猫専用ルームには「キャットウォーク」が設置され、それ以外の部屋には24時間換気システム装備の「ペットスペース」が。ここにはベッドやトイレを置くとよさそうです。そして、旅行などで留守にするとき、代わりに施設スタッフにお世話してもらえるよう、玄関ホールと洗面所などの限られたスペースのみ出入りできる「ペットシッティングエリア」も設けられています。リビングに通じるドアに施錠していればプライバシーは守られ、犬や猫は「ペットドア」を使って自由に行き来できる仕組みです。
共有部分も充実しています。屋上ドッグラン、雨の日に使えるプレイルーム、ペット専用無料ランドリー、そして入居者専用診察室まで!予約しておけば提携病院の獣医師が往診してくれるほか、上記の高度二次診療病院や夜間急病センターも隣接しているため、もしものときも安心です。
さらに、1階にはペット同伴で来店できる「ペピイカフェ」や譲渡対象の保護猫とふれあえる「猫のロンパールーム」があり、一般の人も訪れます。「老人ホームだからといって、高齢者しかいない場所にはしたくない」(平尾氏)という理想を形にしたものです。
「猫のロンパールーム」は入居者のリハビリにも利用されていました。取材当日は米田正子さんがスタッフに付き添われて入室。子猫にブラッシングしたり、おもちゃを持って遊んだり。手を動かすことがリハビリになり、複数の猫の名前を呼ぶことは脳の活性化にもつながるようです。「リハビリが楽しくできますし、ロンパールームに来るのは楽しみですね」と米田さん。自身の部屋ではタマちゃんという8歳の猫と暮らしていて、「一人でも、タマちゃんがいてくれるからさみしくないですよ」と笑顔を見せてくれました。
現在、入居者は7組8名。うち5組はペット同伴で入居し、1組は入居を機に犬を飼い始め、もう1組は入居直前に愛猫を亡くしたため、落ち着いたら飼いたいと話しているそうです。
「入居を機に犬を飼われたのは、8年前にご主人を、2年前にワンちゃんを亡くされた女性で、心配したご家族が最初に見学に来られました。入居を決めてくださり、犬を飼われたら、『母が見る見る笑顔になってきた』と喜んでくださっています」(平尾氏)
PHPは「ペットの最終引受人」という役割も担っています。飼い主さんが先立たれたとき、引き取ってくれるご家族がいればいいのですが、難しい場合は施設が責任を持ってお世話するというシステムです。
「人も動物も施設の中で最期までお世話するのが原則ですが、いい飼い主さんがいれば譲渡も検討します。馴れている他の入居者様に譲渡する可能性もあるでしょう。動物の幸せを一番に考えて、最適な選択をしていきたいですね」(平尾氏)
人生100年時代。老人ホームなど高齢者施設のニーズは今後ますます高まるでしょう。PHPのように一生ペットと暮らすことができて、しかも自分が旅立った後のことを心配しなくていい施設が“当たり前”になる世の中にと願ってやみません。