SOS!ゾウの飲み水がない! 台風15号で停電…「市原ぞうの国」を救ったのは、動物好きの2人の社長だった

佐藤 利幸 佐藤 利幸

「令和」に改元となった2019年は、台風や大雨が列島を襲った災害の年だった。9月に首都圏を直撃した台風15号は未曽有の被害をもたらした。その際、13頭の国内最多飼育数のゾウをはじめ、約100種、400頭羽の動物たちがいる「市原ぞうの国」(千葉県市原市)も停電の被害にあった。同園は公式Facebookで「動力の発電機が壊れそうです。助けてください #市原ぞうの国#ぞうの国 #台風15号 #水不足 #助けてください」とSOSを発信した。この求めに敏速に対応して発電機を貸し出したのが2人の社長だった。

日本気象協会が「2019年お天気10大ニュースランキング」の2位に選出したのが、台風15号。9月9日午前5時前に千葉市に上陸し、暴風で最大約64万戸の大規模停電をもたらした。市原ぞうの国は上陸3時間前に停電。通常3つの井戸からポンプを使い、動物たちの飲み水やプールへの供給を行っているが、供給が困難になった。夜が明けると園内は倒木や大量の落ち葉、飛来物…と目を覆いたくなる光景が広がっていた。

このときは当日復旧の情報があったが当日どころか翌日も翌々日も復旧はせず、結局完全復旧したのは1週間後の16日正午だった。

工事用の古い発電機1基で飲み水の確保はできたものの、節水を続けた。ところがタンクの水はアッという間に空になった。バケツの水を奪い合うように飲むゾウたち。そして虎の子の発電機の調子が悪くなり、このままではゾウたちに飲み水を与えることができない状況になり、停電から3日後、ついにSNSで「助けてください」とSOSを発信することに。

市川市の米山鉄工所もまた所有する営業倉庫が2週間停電、雨漏りや飛来物などの被害にあっていた。市原ぞうの国がSOSを発信した日、社内会議に出席していた米山芳昭社長(71)の元に連絡が入った。連絡はSNSを見た堂本暁子千葉県前知事からだった。そして会議中にもかからわず、「すぐに発電機を現地に届けてくれ」と社員に指示を出した。社員の「社長はとても明るくエネルギッシュで前向きなところが慕われています」という言葉通り、米山社長の行動は素早かった。

米山社長とゾウには浅からぬ関係があった。インドを旅した際、野生のゾウと触れ合ったことがあり、ゾウがどんな性格なのかも心得ていた。今夏「市原ぞうの国」を訪れたときには、1歳のもも夏(メス)にバナナを2ケースプレゼントしたこともある。自他ともに認めるゾウ好き社長である。

そして、もう1人の社長は、埼玉県蕨市の建成工業・田口泉徳社長(46)だ。「たまたまネットで見たんです。困っていると知ったので…(貸し出した発電機は)住宅なら2軒分賄える大きなものです」と発電機を貸し出した。やはり田口社長も「子どものころから動物が好きで、猫やウサギを家で飼っています」と動物好きだった。

9月13日、2人の社長が貸し出してくれた発電機を含め市原ぞうの国では3基の発電機を使い、3つの井戸からポンプで水をくみ上げることができた。プールの水替えを5日ぶりに行い、ゾウたちも存分に水を飲み、水浴びすることができた。その2日後には続々と発電機が届き、計15基の発電機を使い、時間は短縮ながら開園することもできた。市原ぞうの国では、1987年千葉県東方沖地震で水道が止まって以来の被害だった。32年ぶりのピンチを乗り切ることができたその陰には、2人の社長の存在があった。

台風15号で被害を受けた市原ぞうの国の8日間
<9月9日>午前2時停電。井戸から水をポンプでくみ上げることができず、動物たちに飲み水、プールへの水の提供が困難に。
<9月10日>井戸のポンプに工事用の発電機を取り付け、動物たち飲み水を確保。復旧情報があったが結局復旧せず。
<9月11日>大量に水を使うとタンクの水がなくなってしまうため節水。ゾウは水浴びできず。
<9月12日>発電機が不調に。SNSで「助け」を求める。日本動物園水族館協会の加盟園のほか、民間の会社2社から発電機を借り受ける。
<9月13日>借りた3基の発電機で3つの井戸から水をくみ上げる。5日ぶりにプールの水替えを行う。ゾウたちは水浴びが可能に。
<9月14日>その後も発電機を貸りることができ、計15基に。時間短縮ながら開演。動物たちにフルーツなど支援物資が続々と届いた。ショーのなかでゾウの「ゆめ花」は「ガンバレ ガンバル!」の書を披露。
<9月15日>前日に続き、スイカやサトウキビの支援物資が届く。
<9月16日>正午ごろに電気が完全復旧。全国から300件を超える救援物資が届いた。

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