近年、万年筆用のカラーインクを愛好しコレクションする「インク沼」にハマる人が増えるにつれ、ガラスペンの人気が上昇中です。透き通ったガラスのペン先を美しい色インクに浸して文字を書く…究極の大人の文具の楽しみです。しかし職人さんによるお手製のガラスペンは、お値段が1万円くらいから、中には3万円を超すものも。加えて尖った穂先は衝撃に弱く、壜に差し込む時も注意が必要、というからあらゆる意味で敷居の高いペンのようです。しかしSNSには「ついに買ってしまった!」という手に入れた喜びや「キラキラしている」「見てるだけで幸せ」といった外観を愛でるコメントも多数あがっています。いったい何がそんなにも人を惹きつけるのか…?「インク沼」とも深い関わりがある、というこのペンの魅力を探ります。
ガラスペンはペン先がガラスで制作された「付けペン」と呼ばれるペンの一種。ペン先にインクをつけることで文字や絵をかくことができます。漫画家さんなどが使用するスチール製の丸ペンなどと違って、デリケートなガラス製のためより繊細な扱いが必要です。壜にペン先をさし込む際も、そっと優しくしないと先が欠ける恐れがあります。
しかし、細い溝が走るガラスペンのペン先はスチールのそれよりはるかに多くインクを吸いあげます。筆者も試し書きさせてもらいました。一度のインク付けでA5サイズのノートに翻訳小説ほぼ1ページ分の筆写を、するすると書くことができました。ガラスペンのインクもちおそるべし、です。またガラスペンは肌に触れると一種、有機物のような独特の感覚があります。なめらかな書き味と相まって、手書きの喜びを堪能できます。
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ガラスペンには3種類の形状があります。
◆「一体型」こちらはペン軸からペン先まですべてガラス製のもの。何といっても熟達の職人の手による、工芸品のような美しさが人気です。
◆「取り換え型」ペン軸がガラスや木、鳥の羽などでできていてペン先が欠損したら交換できます。ペン先を替えることでお気に入りのペン軸を長く使用可能。メーカーにもよりますが、交換用のペン先も1,000円台から、と比較的リーズナブル。
◆「万年筆型」万年筆のペン先がスチールではなくガラス製。携帯できることがガラスペン好きの人には嬉しいのだそう。
それぞれに長所があるようです。「Kobe INK 物語」の生みの親であるナガサワ文具センターの竹内直行さんに聞きました。
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―そもそもガラスペンはいつごろ制作されたのでしょう
「明治35年に佐瀬工業所の風鈴職人の佐々木定次郎氏の手で作られたのが最初だ、と聞いております。その後、美しい外観や繊細な書き味が珍重されヨーロッパ諸国などに広がりました」