君が分隊長ならどう攻める?…武器も肉体も頭も使う、即応予備自衛官の訓練とは

平藤 清刀 平藤 清刀
部隊を指揮する能力も求められる
部隊を指揮する能力も求められる

「即応予備自衛官って、どんな訓練をやっているの?」

「ホンモノのテッポー撃ったことありますか?」

「戦車の運転できるんですか?」

業界仲間や訪問先で、私のことを即応予備自衛官と知った瞬間、必ず飛んでくる質問のほんの一例だ。

一応お答えしておくと、どんな訓練をやっているかは詳細にいえないが、有事の際に第一線部隊として活動する前提の訓練をやっている。

それから「テッポー」とは、いわゆる鉄砲=火縄銃のことだから、さすがに自衛隊では使っていない。国産の自動小銃を装備している。小銃射撃は、自衛官には基本中の基本スキルだ。即応予備自衛官も毎年「小火器射撃検定」といって、いうなれば射撃の試験を受けて点数を付けられる。その点数によって「○級」というランクづけもされるのだ。

戦車の運転は、正しくは「操縦」という。自分は現職時代に戦車部隊で勤務していたから、戦車を操縦できる。ちなみに戦車を操縦するには、大型特殊免許が必要だ。

射撃の話が出たついでに触れておくと、即応予備自衛官は有事の際に第一線部隊の一翼を担い「戦える」ことを目指して訓練しているので、部隊が装備しているあらゆる火器の扱い方を習得しなければならない。小さいのは拳銃から、大きいのは110㎜個人携帯対戦車弾(LAM)や84㎜無反動砲まで、小銃小隊が装備する火器はひととおり使える。

武器や肉体を使う訓練のほかにも、頭を使う訓練もある。

即応予備自衛官に採用された最初の年に、小隊長からこんな課題が出された。

・貴官は数名の隊員を率いる分隊長である。

・仮に大阪府の広さを5km四方と仮定する。

・現在地を大阪府和泉市にあるJR信太山駅とする。

・生駒山に2~3名の敵勢力が潜伏しているとの情報あり。これに対処せよ。

――という命令を受けたとき、分隊長としてどのような作戦を立てるか?

課題とは学校でいう宿題みたいなもので、期日までに提出することが鉄則。「やってません」「忘れました」は通用しない。

その夜、飲み会は自主的に中止され、居室のあっちこっちで1人、あるいは数人ずつのグループができ、いいトシしたおっさんたちが頭を抱える風景が見られた。

この課題に正解はない。というのは、状況が刻々変化する戦場を想定しているし、正しい判断はその場その場で変わるからである。だから、よほど素っ頓狂で無茶な動きをしない限り「間違いではない」のだ。

分隊長より上の役職になると、グループのリーダーとして頭を使う要素が増えてくる。

あるとき「防御」の訓練で、一本道を見通せる路上に隊員を配置して前哨陣地を構築することになった。小高い台地の上に陣地を設けるのであれば横に展開すればいいから、比較的簡単だ。だが路上だと陣地を道路に沿って縦長に構築せざるを得ず、しかも効果的に射撃できるように配置しろというのである。隊員を縦に配置したら、後ろにいる隊員が前にいる隊員を撃ってしまう恐れがある。たいへん難しいのである。

しかも、防御陣地の構築では「掩体(えんたい)」というタコツボを掘る。身を隠す穴を掘るわけだが、ただ掘ればいいというものではない。掩体には小銃用掩体とか機関銃用掩体などの種類があって、ご丁寧にそれぞれ「1人用」「2人用」と、そこで使う武器や穴に入る人数で形とサイズまで細かく決まっている。

「身を隠せたらいいじゃないか」というご意見はごもっともで、実戦だったらたぶんそうするだろう。しかし教科書通りに掘ること、そしてその作業を指揮するのも訓練なのである。

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