世界的に性暴力の撲滅が叫ばれ、被害を受けた女性たちが声を上げ始めています。その中には、表ざたにならないまま、何年も、何十年も心の奥底にしまい続けてきた人も少なくありません。日本でも、被害を訴えること自体が長い間タブーとされ、被害者を追い詰めてきました。もし我が子や周りの子が被害を訴えたとき、また、信じたくなくても加害者になっていたときに、大人ができることとは―。身内から被害を受けた、ある女性を取材しました。
「息が出来なくて、苦しくて、嫌だった。母に見つけてもらって、やっと終わる、と思ったんです。なのに…」。さちえさん（５４歳、仮名）は４０年以上前の出来事を、言葉を選びながらぽつり、ぽつりと語り始めた。
３歳のとき父を亡くし、母と弟と３人で、母の実家に身を寄せた。まだ幼かったさちえさんは、親戚の家に預けられることも多かったという。そんな中、さちえさんは一番年が近かった六つ上の「お兄ちゃん」と遊ぶようになった。
きっかけは何だったのか、今はもう思い出せない。ただ、４～５歳のころから、人気のない場所に連れて行かれ、服を脱がされるようになった。下着は着けたままだったが、「お兄ちゃん」はさちえさんの体を触り、上に乗ってきたという。「その頃は小さかったし、男子の間でプロレスも流行っていたから何かの技なのかな、と。全然、分からなかった」
