親戚からの性被害「なかったこと」に 心に傷抱え40年 「その時」に親ができることは

広畑 千春 広畑 千春

 「お兄ちゃん」が中学生になると行為はエスカレートしたという。「実際に性行為をされたわけではなかったけれど、半裸で地面に寝転ぶのが痛くて、お兄ちゃんの荒い息遣いが気持ち悪かった。でもお兄ちゃんのことが怖くて、『誰にも言うな』と言われるまま、『言っちゃダメだ』『我慢すればいい』と思ってた」

 いたずらはさちえさんが9歳になるまで続き、突然終わった。現場をさちえさんの母と「お兄ちゃん」の母親に目撃されたのだ。だが、怒られると思った「お兄ちゃん」はどこかに連れて行かれ、なぜか、さちえさんの母も一緒に行ってしまった。一人、その場に残されたさちえさんは自分で土を払い、服を着て、部屋に戻った。

 「私は泥だらけで傷だらけだった。なのに、母は『何があったの?』とも『大丈夫?』とも言わなかった。一言、『もうお兄ちゃんとは遊ばないように』と言われただけ」とさちえさん。「その瞬間に分かっちゃったんですよね。ああ、この人は私の味方になってくれる人じゃないんだ、って」。「お兄ちゃん」も怒られた様子はなく、いたずらは「なかったこと」になった。

 その後、さちえさんは週に何度も、夜、金縛りに遭ったように体が動かず、声が出せなくなった。症状は大学進学のため実家を離れるまで続いたという。

 さちえさんは今、夫と暮らすが、このことを話したのは20年前、当時仲の良かった友人に1度きりという。その友人は「お母さんも大変だったね。(親戚への)遠慮もあったんだろうし」と言い、さちえさんもそれ以上話すことはなかった。母も健在だが、もちろん、あの日以来、話題になったことは一度もない。

 最近になり、性暴力撲滅のため被害者が立ち上がる「#MeToo」運動や、相次ぐ性犯罪の無罪判決を受けて始まったフラワーデモなどで、女性たちが経験を語っているのを目にし、さちえさんも「自分のためにも、話してみようかな」と思ったという。デモの参加者たちはさちえさんの話にうなずいてくれた。「実は私も」という人もいた。さちえさんは、初めて「受け入れてもらえた」と思えた。と同時に、「やっぱり、ちょっと疲れました」と力なく笑う。

 「私にとっては、『お兄ちゃん』にされたことより、母に置いていかれたことが、ずっと心に重くのしかかっているんでしょうね。母も、幼い子ども2人を連れて経済的にも精神的にも余裕がなかったんだとは思うんです。世代的にも性的なことはタブーだったから、余計に。でも、今だって、そんな人は大勢いるはず。それが苦しくて…」とさちえさん。「9歳の私は、あのとき、母にどうして欲しかったんでしょうね…」

 

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース