平安神宮や京都国立近代美術館などが集まる京都の文化芸術ゾーンの一角に、異彩を放つ妖しい空間がひっそりと出現している。その名も「カオスの間」。薄暗い部屋にはマネキン、ガイコツ、便器などなど、「一体何?」というものばかりが陳列されている。恐る恐る扉を開け、ご主人に話を聞くと、これまた一癖も二癖もあるお方だった。
京都市営地下鉄の東山駅で下りると、さらさらと流れる白川に沿い、小さな脇道が北へと延びている。ロームシアター京都や市動物園がある岡崎地区へと続くルートで、風情たっぷりの雰囲気が人気を集め、近年は人通りも増えている。その途中にあるビルの2階に「カオスの間」はある。
1階は寿司店。その看板の横に手書きで「NEXT WORLDミュージアム黄泉[よみ]」の文字。何屋さんなのか、想像もつかない。
「入りにくいやろ。そこを勇気を持って踏み出すことが必要なんや。一人で入ってくるやつもおる。これは見どころがあるやつや」
「カオスの間」の主人、砂本松夫さん(70)が笑いながら出迎えた。
つぼに入っているのは…
面積は50坪ぐらいだろうか。奥行きのある部屋に照明で浮かぶオブジェの数々。オーディオからはバイオリンの弦をこするような「現代音楽」が流れる。つぼにマネキンの上半身が入っていたり、「看護婦室」との札が掛かった暗い小部屋にはガイコツの人形があったり。なんじゃこりゃ。
なんか、すごいですね。「見る人によったらガラクタやわな。普通の人は入ってこないわ。でも、外国人は喜んでくれるでえ。安部公房の世界みたいですねって言われたのが一番うれしかったなあ」
これって展示作品と考えたらいいのだろうか。「そんなん、どっちでもええんや。はっきり分からんイメージの方がええ。君がどう感じたか。あなたが考えなさい。そういうこっちゃ」
ひょっとして砂本さんの作品? 「もある。作品をつくるための材料を売ってもいる」
えっ、でも値札は付いていない。「値段なんて付ける必要ない。お客さんと話して、どんな風に使うか聞いて、いくらって決める。基本的には安いわ。若いやつはお金ないやん。ただであげる時もあるぐらい」。骨董の卸市場で売れ残った中から気に入った品を買い上げ、どこにもないマイワールドを作り上げているのだそう。