実在の僧侶の写真を使ったカードゲーム『ぼうずめくり』がXで話題に。実際に遊んだ投稿主と、制作者に斬新なカードゲームの誕生秘話を取材しました。
「本日の地獄難易度神経衰弱枠、『ぼうずめくり』」と、テーブルに並べたカードで遊ぶ写真を投稿したのは、漫画家・脚本家の磨伸映一郎(@eiitirou)さん(以下、磨伸さん)。
カードの表面には剃髪し、法衣を着た男性。全員が実在する僧侶で、作った人も僧侶という裏話に、「大晦日に家族総出でやりたいやーつ!」「俺の知ってる坊主めくりと違うwww」「絶対見分けつかんわ」「蝉丸しかいない…だと…(違」「名前も顔立ちもひとりひとり全然違うのに、誰一人として頭に入ってこねぇ…!」と反響が続々。
『ぼうずめくり』(2300円)は、承諾を得た実在する僧侶35名分の写真を2枚ずつ使用した70枚のカードゲームです。
カルタや百人一首のように読札・取札があり、読札を裏向きに重ねて山札とし、取札を表に向けて場に広げ、山札から引いた1枚と同じ僧侶の札を場から探す「ぼうずめくり」の他、「ぼうずあわせ」「それはこのぼうずですか?」の3種の楽しみ方を提案しています。
まず、磨伸さんに『ぼうずめくり』の魅力や感想を聞きました。
「馬鹿馬鹿しいかも知れないけれど、実現させるとは」
ゲームの漫画・脚本を多数手がける磨伸さんは、大阪で月1回、小説家や漫画家などクリエイターで開催される「作家会」に参加。その際に、メンバー同士で『ぼうずめくり』で3種の遊び方のうち、神経衰弱と同じルールの「ぼうずあわせ」、僧侶の特徴などを質問して誰なのかを当てる「それはこのぼうずですか?」をプレイしたのだそう。
「ぼうずあわせ」では、「あまりにも全員見た目の区別がつかないので各作家陣が『若い頃ロックに没頭してて今でも寺のどこかにエレキ置いてそうな人!』『かつて村のワルとして暴れてたものの寺に放り込まれ改心した後は予想以上に徳が高まった人』などと勝手にバックストーリーを構築して記憶の手がかりにしていた」と、かなりの注意力と想像力も必要だったそうです。
――遊んでみて、特に気になった点は?
「実在するお坊さんの眼鏡着用率が驚く程高いという見た目のインパクトも、このゲームの醍醐味かも知れません。みなさん、とても知的に見えるのに、このようなおもしろげな企画にも参加してくださる温かさ……がにじみ出ているのがまた味わいかと」
――投稿には大きな反響がありました。
「カードゲームやボードゲームといった非電源系ゲーム(アナログゲーム)のインディーズ作品は様々な意欲作が生まれ、特に一風変わった・奇抜な・一発ギャグ的な“かるた・神経衰弱系ゲーム”は一大人気ジャンルとなっています。
この『ぼうずめくり』はシンプルにわかりやすく、馬鹿馬鹿しいかも知れないけれど実際に形にするところまで進める人は今までいなかった……という事で多くの人を魅了したのだと思います」
◇ ◇
実在する僧侶に依頼し、遊んだ人からも喜ばれている『ぼうずめくり』ですが、その奇抜なアイディアはどのように生まれ、実現したのでしょうか。企画・制作した「WAYA工藝」に話を聞きました。
「修行同期の写真を見ていたら…」
「WAYA工藝」は団体職員と僧侶、2人からなるクリエイターサークルで、今年3月からメンバーの地元である北海道を拠点に始動しました。
「おじさん構文を作って遊ぶ『オジサンメッセージ』を作ったボードゲーム制作サークル『ドヤゲームズ』さんに、ボードゲーム開発について教えてもらったのがきっかけです。それから、ゲーム開発を目指しました」。道内ながらも離れた都市に住む2人とあって、打ち合わせはZoomで行っていったそうです。
当初はコンセプトをしぼらず、「それぞれ団体職員と僧侶という異なる分野で仕事をしていましたので、地元の自治体の特産品をテーマにしたボードゲームなど様々な案を出しました」
話し合いを進めるうちに、11月に「幕張メッセ」で開催されるイベント『ゲームマーケット2024秋』への出展という目標が生まれ、ゲームのイメージを固めていく話し合いを重ねていきました。
目指すは、クリスマスやお正月に家族で遊んでもらえるようなゲームで、海外から出展する人にも興味を持ってもらえそうな日本らしいビジュアルインパクトが強い作品。ゲーム開発は初めてなのでルールは単純明快に。そこで、テーマは馴染みのある仏教に決めて、企画を検討。
「『一般の方にはわからないだろうけど、僧侶同士だと後ろ頭の形だけで見分けがつく』という話から、メンバーの修行同期の顔写真が並ぶアルバムを見てみたところ、そのシュールさ、あまりの見分けのつきにくさに『これだ!』となりました」。