ある意味、究極の秘境鉄道と言っていいだろう。中国山地のど真ん中、広島県の三次駅から、日本海沿岸の江津駅まで。三江(さんこう)線は、中国地方一の大河・江の川に沿って伸びる、風光明媚なローカル線だ。
1930(昭和5)年に開業とその歴史は古いが、全通は1975(昭和50)年。工事着手から実に9年半、開業から半世紀をかけた悲願の開通だった。
それほどの時間がかかった理由は、実際に乗車してみればよくわかる。口羽駅~浜原駅の7駅間が最後に開通した区間。同区間にさらに島根・広島県境の口羽駅~三次駅までを加えた区間が、三江線のハイライト。川岸の崖っぷちにへばりつくように、線路が設けられているのだ。
ほとんど川の上を走っていると錯覚するような場面も。建設時を知る地元の方いわく、「当時は道が悪く、遠方から大型車両で資材を運び込めなかった。建設のための臨時の生コン工場が数カ所、設けられていた」とのこと。
車両は時折スローダウンしながら、慎重に進む。その分、悠々と流れる大河と、周辺の雄大なる山並を堪能できる。山の間に架かる高架橋上の宇都井駅、一日の約半分の列車が通過してしまう長谷駅など、個性派の駅も。今では1日の乗降客数が一桁、どころかゼロに近い駅も多いが、島根・広島の両県境、いわば「陸の孤島」の住人にとっては、念願の公共交通だったに違いない。
しかし、ほかの地域のローカル線同様、モータリゼーションの波には逆らえず、三江線は2018年3月末をもって廃線となる。路線距離が100キロを超える鉄道路線の全線廃止は日本初ということもあり、鉄道ファンの乗車が増えているのだが、今冬の豪雪で浜原駅~三次駅間が約1カ月近く運休。ようやく2月24日より再開された。廃線まであと1カ月ほど。今後は運休なく、最終日を迎えられることを願ってやまない。