なぜ予測を上回るペースで出生率が落ちたのか
出生率が予測に反して低くなった原因として、出産や育児、家庭のあり方が想定以上に大きく変わってきた点があげられます。未来の出生率を想定する際には、将来の人々が出産や育児、家庭像をめぐってどんな行動をとるか考えることが必要です。将来、人々の行動様式や社会慣習が変わると、出生率が想定とは大きくずれるおそれが高まります。
たとえば、1985年時点で想定されていた家庭のあり方と比べると、現在の日本社会における家庭像はかなり変わってきました。男女共同参画白書(令和4年度版)によると、1980〜2020年にかけて、
・単独世帯が711万から2,115万世帯
・ひとり親と子どもからなる世帯が205万から500万世帯
へと大きく増加しています。一方で、夫婦と子どもからなる世帯は1,508万から1,395万世帯へと減少しているのです。モデルケースとして想定していた夫婦と子ども世帯は減りつつあります。そのかわりに、ひとり親世帯や単独世帯が目立つようになってきました。
女性の社会進出をはじめとした労働環境の変化も、1985年当時と比べればかなり進んでいます。結婚や出産、育児の意思決定、働き方や価値観など、さまざまな面で日本社会が大きく変わりつつあることのあらわれでしょう。
2024年度も、今後の出生率や人口動態に関する予測が出ています。これから出生率の下落は落ち着き、やや増えていく傾向にあるだろうと発表されました。しかし、私たちのライフスタイルや日本社会の姿がさらに変わっていくと、ふたたび想定以上に出生率が落ちてしまう可能性もあります。長期的に人口を回復させるために、出生率低下を食い止めた海外の事例や研究の知見を活かすことが重要です。腰をすえて対策を進めていく必要があります。
【参考】
▽厚生労働省「令和4年度人口動態調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html
▽経済企画庁「平成4年度国民生活白書」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9990748/www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h4/wp-pl92-01101.html
▽国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口・世帯数」
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/mainmenu.asp
▽内閣府「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/index.html
▽内閣府「少子化社会対策白書(令和4年度版)」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12772297/www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2022/r04webhonpen/html/b1_s2-1.html
▽内閣府「男女共同参画白書(令和4年版)」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/index.html
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◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。