30代のAさんは、子どもの小学校入学に合わせて一戸建てを購入しました。近所の方との関係も良好。隣には田んぼがあり季節の移り変わりを感じられ、家族全員とても気に入っていました。ところが去年の秋、隣の田んぼが稲刈りをしたあと整地する様子がありません。春になっても田植えをする気配がなく「もう田んぼをやめられたのかな」と思っていました。
そんなある日、仕事から帰宅すると田んぼの周りに柵が立てられており、「マンション建設予定地」の看板が。工事はどんどん進み、マンションの外壁があっという間に完成します。どうやら建築中のマンションは3階建てらしく、朝は日差しが当たるのですが昼過ぎにはマンションの外壁で影ができてしまいます。これでは冬に洗濯物が乾きづらくなることもあり、近所のコインランドリーに行くことになりました。マンション建築による日差しの変化は、このまま受け入れるしかないのでしょうか。弁護士の古藤由佳さんに話を聞きました。
ー日差しを受ける権利などは存在するのでしょうか
はい。存在します。日照権というのですが、居宅において一定時間以上の日当たりを確保し、快適で健康な生活を営む権利です。法律上、明文の規定はありませんが、判例上は、不動産の所有権に含まれる権利であるとされたり、憲法13条「幸福追求権」から導かれる人格権の一種とされ、法律上保護される権利・利益であることが認められています。
ーどのような場合に日照権が侵害されたとみなされるのでしょうか
日照権の侵害が違法と認められるのは、侵害によって生じた損害が「社会生活上一般的に被害者において受容(受忍)すべき程度を超えた場合」に限られます。(「受忍限度論」と呼ばれます。)
被害を主張する方の周りの方も、正当な権利に基づいて建物を所有しているので、日差しが遮られたら直ちに違法であるということにはなりません。建築基準法などの各種法令に違反しているかどうか、日照権侵害がどの程度深刻か(範囲や、日の当たらない時間の長さなど)、建物建設に至るまでに近隣住民との説明や協議がおこなわれたか、日照権侵害を回避するために取りうる手段があるか、などを総合的に考慮して、日照権侵害が違法であるかを判断します。
日照権侵害が違法であると認められた場合には、建築途中の建物であれば、建築の差し止め請求を行ったり、損害賠償請求を行うことが考えられます。
ーAさんのケースでは損害賠償を請求できるのでしょうか、またできるとしたらどういう内容のものですか
本件についてみると「昼過ぎにはマンションの外壁で日差しが遮られる」とあります。
日照時間は、一年で一番日の短い「冬至の日」を基準に考えることが一般的です。そのため、東京で18時頃に日が沈むとすると、14時頃~18時頃までの約4時間、日が遮られていることになります。
過去に、1日5時間程度の日照時間の短縮を認定して、日照権の違法な侵害を認定した裁判例があることから、日照権の侵害の程度は高い事案だと思います。
ただ既述のとおり、日照時間がどれくらい短くなったか以外にも考慮すべき要素がいくつかあります。最終的には、隣のマンションが建設されるまでの経緯なども踏まえて判断されるでしょう。もし請求が認められた場合には、洗濯物が乾きにくいことによるコインランドリー代も損害の一部として賠償の対象にできると思います。
◆古藤由佳(ことう・ゆか)弁護士 弁護士法人・響に所属。「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、消費者トラブルや借金・交通事故・離婚・相続・労働問題など、民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。
▽弁護士法人・響 公式HP
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▽『こんな法律知っ手相』HP
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