同僚が大人の発達障害だったら? ミスを責めても事態は好転しない トラブル防止は本人の対策と周囲のサポートから

松田 義人 松田 義人

「大人の発達障害」とよく耳にするようになりました。特性や傾向は注目されていましたが、周囲の人ができるサポート術についての情報はまだ少ないように思われます。

発達障害がどんなものかの概要を解説し、サポート術をわかりやすく紹介した一冊がNHK出版から刊行されました。「別冊NHKきょうの健康 大人の発達障害(ADHD、ASD) 職場で、家庭で、周囲ができるアドバイスとサポート」(監修:岩波 明/編:NHK出版)です。本書より「困りごと」の場面での周囲のサポート術を抜粋して紹介します。

障害や疾患より「特性」「個性」と捉えるとよい

本書の冒頭では「大人の発達障害」をこう解説しています。

「発達障害」とは、生まれながらに脳機能に偏りがみられる、さまざまな疾患の総称です。「ADHD(注意欠如・多動症)」や「ASD(自閉スペクトラム症)」、「LD(限局性学習障害)」などの疾患や状態が含まれます。
“脳機能の偏り”というと難しく聞こえるかもしれませんが、障害や疾患というよりも、「特性」や「個性」と捉えたほうがしっくりくるでしょう。
~中略~
本人が特性に気付かず、周囲のサポートも得られないままだと、トラブルが続いて深刻な状況に陥ることも少なくありません。本人自身が特性を理解して適切に対処するとともに、周囲のサポートが大切です。(本書より)

「近視性」傾向のADHDのサポート術

職場や家庭でケアレスミスを起こしやすいといわれるADHD。本書では、ミスについて本人を責めても改善は期待できないといいます。その特性を周囲が理解し、サポートすることでミスを減らすことができるそうです。

不注意の特性をもつ人は、自分の目の前の物事だけに注意が向いています。また、少し前の出来事をすっかり忘れてしまったり、先の展開を予想して段取りをつけることも苦手です。
この特性は、視力になぞらえて「空間的・時間的『近視性』」とも呼ばれています。近視の人は、手元ははっきり見えますが、遠くはぼんやりとしか見えません。それと同様に、不注意があると、空間的にも時間的にも極めて近い範囲しか把握できないのです。
~中略~
したがって、ミスを減らすためには、ミスをしたら本人がその場で、「どんなミスをしたのか」をメモしてあとで見返すように勧めるのがいちばんです。(本書より)

「言葉の裏」を読み取ることが難しい傾向のASDのサポート術

他者とのコミュニケーションが苦手な特性があるASDの人は、人づきあいが苦手なことから言葉の裏を読みとることが難しく、他者の言葉をストレートに受け取って信じてしまう傾向があるとされます。また、過去の経験から自尊感情が低く「自分はダメな人間」と思ってしまっている場合、他者からの言葉を否定できずに、詐欺やDVなどに巻き込まれてしまうこともあります。

ASDの人の家族や周囲の人は、普段からコミュニケーションを取るようにして、「何かあったときに相談できる関係性」を保つことが大切だと解説しています。

「ふだんからコミュニケーションを密にしておく」「さりげなく交友関係をチェックしておく」「子どもから相談を受けたときは真剣に答える」
~中略~
友人や恋人と思っていた人にだまされたことがある人には、周囲の人は変わった様子がないかどうか気を配り、その人が誰かにだまされていると感じたら真剣に相談に乗り、「信頼できない人であるようなら、つきあいをやめたほうがよい」とアドバイスしましょう。(本書より)

本人と、周囲の人との信頼関係が大切

本書ではさらに多くのサポート術が紹介されていますが、いずれも「こうすべき」「こうしなさい」といった強要的なものではなく一貫して優しい筆致で、「今日から実践できそうだ」と思えるものばかりです。最後に本書の担当編集者にも聞きました。

「本書は専門医の岩波明先生にご監修いただき、一般読者向けにわかりやすくお伝えする1冊として刊行しました。発達障害の特性が原因で起こるトラブルを減らすためには本人の対策が重要ですが、同じくらい重要なのが周囲の人のサポートです。さらに、周囲の人と本人との間に、信頼関係や理解し合おうとする関係がつくれているかどうかが大切だと思います」(担当編集者)

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