【漫画】娘の診断をきっかけに、母自身にも発達障害が発覚 自閉スペクトラム症の体験談を描いた漫画が話題

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

「自分が発達障害(自閉スペクトラム症)だと知るまでの話」

水谷アス(@mizutanias)さんがTwitterに投稿した漫画が話題になっています。

発達障害という言葉が社会的に認知されてきた昨今。困りごとを抱える本人はもちろん、周囲の方々にとってもそのような方々とどう関わり合うかは大きな課題となっています。

そのなかでも、自閉スペクトラム症(ASD)は、対人関係などのコミュニケーションが難しい、想像力が乏しい、特定の物事への反復行動にこだわることなどが症状としてあり、発達障害のひとつの症例と言われます。

スペクトラムとは「連続体」という意味で、特性の傾向や症状の重さなどが人によって強い、弱いがあってさまざまに異なりますが、分類によっては、アスペルガー症候群など狭義な呼び方もあります。

 

診断を受けるまでの体験談、その時の想いが色濃く描かれる

水谷さんは、ご自身にASDがあることを自ら公言し、自身の特性にまつわる体験談を漫画で紹介。

作中では水谷さんはリス、長女ハナさんはウサギ、次女マルさんはイヌ、他の人たちはネコの姿で描かれています。

水谷さんがご自身のASDに気づいたきっかけは、長女であるハナさんにASDがあることが発覚したことだといいます。

新生児の頃からいろいろな問題が目立ったというハナさん。しかし、その時は「この子の個性」だと思っていたそうです。

しかし、ある日知り合いから「発達障害」についての本を紹介されます。「私の子どもを“障害児”呼ばわりするなんて!」と最初は腹を立てていたという水谷さんですが、いざ本を読んでみたところ、あまりに当てはまるところが多く驚いたといいます。

そのような経緯もあり、ハナさんに発達障害(ASD)があることが発覚しましたが、水谷さん本人にも思い当たるふしが多かったそうです。
「もしかすると、自分にも同様の特性があるのかもしれない…」
水谷さんはそう考えて、自身も通院してみることにしました。

漫画ではその後、水谷さんが病院で問診や検査を受け、自身がASDと診断されるまでの過程も詳しく紹介されています。

当事者としての視点で描かれる体験漫画。リプ欄には、多くの反響があり、「私だけじゃなかったんだ」「共感しました…」というような、同様の症状があったり経験をされたりした方からのコメントも多くありました。

しかし、ようやく診断が出て安堵したのも束の間、主治医からそこまで社会的な困難を抱えていないと判断され、「診断が出ても病院からあなたにできることはない」と言われてしまいます。検査結果の用紙を欲しいとも言いましたが、「渡すことはできない」と断られてしまいました。

しかし、いくら症状が軽くても、当事者は当事者なりの苦労をされてきたはずです。それなのに、このような対応をされてしまうと、自分が否定されているような気分になってもおかしくありません。

しかし、これは精神科や心療内科を受診された方によくある話だといいます。実際に、リプ欄でも、「(漫画での主治医の対応は)まさしくうちの体験でした。何のために受診したのか今でも納得できていません」といった声がありました。

当事者であるがこそのエピソードを包み隠さず描かれた、水谷さんにお話を聞きました。

――作中では、主治医からの対応に納得がいかない場面があったようにも見受けられましたが、セカンドオピニオンなどは考えなかったのでしょうか?

水谷さん:今回の漫画では検査結果がもらえなかったところまでしか描いていないのですが、最終的にはもらえたんです。その時のエピソードも今後描いていく予定です。その結果の中身を勉強し、自分なりに自分自身と向き合うことができたので、今回はあえてセカンドオピニオンが必要だとは思いませんでした。ただ、これよりも以前にうつ症状がひどくなって、心療内科に何度か通ったことはあります。ですが、その時には発達障害を疑われたことはなく、処方薬も出ましたが効きませんでした。

――発達障害の方が二次障害でうつやパニック障害と診断され、本来必要な治療がなされないという問題もあるのですね。現在はASDであることが分かっていますが、具体的に水谷さん自身が日常生活で苦労されていることはどのようなことですか?

水谷さん:人の顔が覚えられない相貌失認の傾向があることです。特に最近は、マスク生活になってより一層わからなくなりました。人の目を見て話すことが苦手なこともあって、目しか見えないとなると本当に誰だか分からなくて…。子どもが仲良しな子もわからず、親の顔も覚えられないので、出先で話しかけられるととても焦ります…。

――最近では、学校でも障害のある子どもへの教育体系が進んでいるほか、心理カウンセリングや発達障害の支援施設なども注目されていると聞きます。水谷さんご自身や娘さんは何かそういったサポートは受けられていますか?

水谷さん:娘は学校では特別支援学級に在籍していて、また支援機関は放課後等デイサービスに通っています。私は、どこにどういう形で相談したらいいか分からないこともあり、今のところそのような機関の利用はしていません。

障害の本当の意味を知って欲しい

上記の「自身がASDの診断を受けるまで」の漫画以外にも、水谷さんは発達障害やASDについて詳しく紹介した漫画を多数公開されています。

『身近にいるちょっと変わった人、周りとうまくやれない自分。それってもしかして自閉症スペクトラムかも』

という見出しで公開された漫画では、ASDの特徴や迷惑をかけてしまいがちな場面、自身の困りごとなどについて、自身の経験もまじえて分かりやすく解説。

作中では「障害とは何か」について、水谷さんなりのお考えも紹介されています。

水谷さんは、障害という言葉は、その人自身の存在に対してのものではなく、この社会に向けられたものであるといいます。

社会の成り立ちや仕組みが、人よっては生きづらいものになっている――そのことを障害と言い、そのような人でも過ごしやすい環境を作っていくこと(合理的配慮)が大切。「目が悪い人が眼鏡をかけることと同じこと」と水谷さんは漫画で語っています。

また、水谷さんは、このような障害に対する解釈の相違は、“障害”の表記のされ方についても現れていると考えています。

近年では、障害の「害」という文字が良くない印象を与えるという解釈から、「障がい」と漢字と平仮名の混ぜ書きにしたり、「障碍」と旧字が用いられたりすることも増えました。

しかし、水谷さんはそのような風潮に対して疑問を感じているといいます。

「障害の言葉が指しているのはその人そのものではなく、社会です。“障がい”と書くことを配慮と思うということは、それは逆に『当人が社会の障害である』と解釈しているということにもなり、逆に失礼な表現になると私は思っています」(水谷さん)

実際、障害の表記の仕方に対してはさまざまな意見があり、「書き方をソフトにしたところで、根本的な問題が解消されるわけではない」という声もあります。

ちなみに、筆者は福祉施設で職員をやっていた当時からの習慣で、“障がい”という表記をこれまで使用していました。しかし、本記事では水谷さんのご見解を尊重し、あえて“障害”と表記させていただいています。

身近にあるちょっとしたことにも、障害に対する理解度や解釈の違いは感じられますね。些細なことであっても、きちんと見て真摯に考えることが大切です。

小学生の頃の漫画家の夢を今になって…

このように、発達障害やASDについて、多くの漫画で紹介されている水谷さん。

なぜ漫画を描こうと思われたのでしょうか?

――以前はお勤めをされていた時期もありましたが、現在は子育てをしながら、漫画を描かれていますね。漫画を描きはじめたきっかけは?

水谷さん:実は私、小学校のときの将来の夢が漫画家だったんです。ですが「絵を仕事にするなんて無理だ」と周囲に言われてしまい、いつしか諦めていて…。30年以上経った今になって、また小学生の頃の夢を追い始めました(笑)。

――子育てや家事の時間をやりくりしながら、漫画を描かれてるんですね。

水谷さん:子どもが2人になって、職場と家事の同時進行が難しくなったので仕事を辞めました。パート勤めも考えましたが、子どもの行きしぶりがあったり、療育機関への送迎や付きそいが必要だったりすることを考えると難しくて。いろいろ検討してみた結果、空き時間に自宅で漫画を描くことを選びました。

  ◇  ◇

出産や子育てといった生活環境の変化を経て、現在は子どもの頃からの夢だった漫画家活動を行っている水谷さん。他にも発達障害やASDについての漫画を多く作成されています。ASD関連の漫画は毎週水曜に更新とのこと。

■水谷アスさんのTwitterはこちら→https://twitter.com/mizutanias

■水谷アスさんのnoteはこちら→https://note.com/tetom_note

■水谷アスさんの活動ページはこちら→https://peraichi.com/landing_pages/view/mizutani

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