『生きづらさを隠して生きた親子の話』
このようなタイトルで投稿されたTwitterの漫画が、大きな反響を呼んでいます。漫画を描いたのは、自ら発達障害の一種である自閉症スペクトラム(ASD)があることを公言し、体験談などを紹介している水谷アスさん(@mizutanias)。
先日、まいどなニュースで『自分が発達障害(自閉症スペクトラム)だと知るまでの話』という漫画を紹介させていただきました。
今回の漫画は、ご自身だけでなく、ご自身の娘さんについても描かれています。
幼い頃から周囲となじめなかった水谷さん
漫画は水谷さん自身の幼少期の体験談からはじまります。
幼少期から好奇心で自ら川に沈み溺れかけたり、周りの女の子たちの集団になじめなかったり、と少し変わった子供だったという水谷さん。
成長するにつれ、周囲とのズレは大きくなっていき、「天然」と笑われたり、いじめに遭ったり、嫌われたりすることもありました。さらに、社会に出ても、度重なるミスで叱責されるなど、失敗と挫折を繰り返してきたそうです。
しかし、当時はまだ自身が発達障害であることを知らなかった水谷さんは、何をどうすれば良いのかまったく分からなかったといいます。
娘さんをきっかけにASDという障害を知る
水谷さんはやがて結婚し、娘のハナさんを出産されました。
「ハナには私みたいな…辛い思い…してほしくないなぁ…」
そんな風に思っていた水谷さんでしたが、ハナさんも保育園に通いはじめると、周囲のズレが目立つようになりました。このままだと“周りとうまくやれない人”になるのでは――という焦りから、水谷さんはハナさんを強く叱りつけてしまいます。
「辛い思いをさせたくないと思っていたのに、今辛い思いをさせているのでは…?」
そんな迷いを覚えるなか、水谷さんは次女・マルさんを出産。しかし、マルさんはハナさんに比べて、手がかからない子どもであり、水谷さんの違和感はより深まります。
そんな時に知り合いから紹介されたのは、発達障害をテーマにした本。その本をきっかけに、水谷さんは発達障害・自閉症スペクトラム(ASD)というものの存在を知ることになりました。
娘のハナさん、そして水谷さん自身も、このASDを抱えていることが発覚。「私たちは生まれつき『フツウ』とは違ってたんだ…」と水谷さんは気づきました。
「フツウ」じゃなくていい
水谷さんは発達障害・ASDの生きづらさについて、動物にたとえて説明しています。
ネコが暮らす世界の中にリスやウサギが紛れ込み、ネコの着ぐるみを着て、ネコと同じように魚を食べたり木登りをしようとしたとしても、それはどだい無理な話です。
ですが、水谷さんは自身にも、そしてハナさんにも、そのような生き方を強いてきたのでした。
その無茶はやがて限界に。ハナさんは「死にたい」と自分を責め、暴れるようになります。
このことが水谷さんの考え方を変えるきっかけになりました。
リスやウサギにネコのマネができないように、自分たちも「フツウ」を演じ続けなくても良い。
みんなと違っていても構わない。
無理に周囲に合わせるのではなく、自分たちは自分たちらしく生きる道を進もう――というところで話は終わります。
多くの反響が…でも中には心ない中傷も
このような、水谷さん母娘の実体験を綴った漫画。
Twitterのリプ欄にも多くの反響がありました。
「知らない人から見たら自分勝手にしか見えない、自分の側にいたら知らずに怒っていたかもしれない。周りにもっと知って欲しい内容だと思います」
「社会や学校、 人間関係が複雑に絡まるけど、みんな違ってみんな良いって言ってんじゃん。認め合おうぜと感じてしまう」
「放デイに勤めている者ですが、まさにお子さんのように心の中に自分を卑下し、否定し、悲観してしまう爆弾を抱えている子供達、結構います。読んでいて胸が痛みました。これからもそんな子達に沢山の自己肯定感や自信、居場所のある安心感を与えられるよう支援していきたいです。ありがとうございます」
多くの方から、共感のコメントが寄せられています。
しかしながら、このような声がある一方で、「障害がある人間が子どもを作るべきではない」「自分の生きづらさを解決できてから産め」「生きづらいのは自分のせい。理屈こねて正当化するな」というような心ない言葉が一部の人から上がっています。
さらに、このような批判的なコメントに対して、「辛すぎて泣いた」とか「何でこんな世界なんだろう…」など嘆きのコメントもたくさん見受けられました。
ASDに対する理解やみんなが幸せになることを願って描かれたはずの水谷さんの漫画。
一部の人たちのために社会の偏見が助長されてしまったり、それによって傷つく人たちがあるというのは、何とも残念なことです。
もっと理解ある社会になって欲しいです。
やりたいこと、好きなことを見つけて大切に
水谷さんにおうかがいしました。
――現在のハナさんの状況は?
水谷さん:小学校では特別支援級に在籍していて、支援機関としては放課後等デイサービスを使っています。死にたいという言葉も次第に言わなくなり、「こんな風に言ったこともあったよね」と自分で客観的に当時の事を振り返る余裕もあるようです。
――「違っていていい」と認められたことが良かったのでしょうか。
水谷さん:今回の漫画の内容なのですが、実は本人にも読んでもらっているんです。辛い描写もありますが、乗り越えられた実感があるためか、とても気に入って読んでくれています。
――水谷さんも、社会でさまざまな苦労をされてきましたね。
水谷さん:13年ぐらい職を転々としつつ働いてきましたが、何かしらのしんどさを感じていました。人嫌いなわけではないのですが、自分以外の人がいる環境で仕事をすることは、私には負担が大きいみたいです。
――今では仕事を辞め、子育てをしながら漫画を描いていらっしゃいますね。
水谷さん:漫画家になることは小学生の頃からの夢でした。1人で集中できる環境での作業は向いていると思います。
――水谷さんのご経験や気づきはとても貴重なものだと思います。娘さんたちに伝えたいことは?
水谷さん:娘たちには、「やりたいこと、好きなことを見つけて大切にしようね」とよく話しています。本当にやりたいことは、実は幼い頃の好きなものの中にあると思うんです。他者の評価を気にせず、思うままに好きなものへの興味から学んでもらって、その中から自分が出来る事を仕事にしていってもらえたらと願います。
――発達障害やASDについて思うこと、この社会や周囲の人たちに理解して欲しいことはありますか?
水谷さん:発達障害は「”劣っている”のではなく”違う”だけ」と言われています。人それぞれ違うのが当たり前だと思いますし、互いの違いを受容していけるようになれば、障害は障害ではなくなるかもしれません。同じような能力を持ち、同じようなことしか出来ない人しかいない世界より、それぞれ出来ることが違う世界の方が面白いのではないでしょうか。また、当事者側が一方的に社会や周囲への理解や配慮を望むのではなく、当事者側も自覚や自己理解をする必要があると思います。互いに歩み寄れるような環境づくりも大切です。
◇ ◇
さまざまな苦労を乗り越え、漫画制作というしたいこと、できることをようやく見つけられた水谷さん。しかし、今のところ、漫画を収益につなげる事は出来ていないといいます。
「自分が出来るとわかったことで収入を得て、生活を豊かにしていくことが今後の目標です」(水谷さん)
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