共同通信が最近報じた記事によると、中国軍のシンクタンク軍事科学院の中将は12月9日までに共同通信からの取材に対し、尖閣諸島を台湾省の一部と位置づける中国の論理に従えば、台湾侵攻と当時に尖閣奪取に出る可能性があると言及した。また、同中将は尖閣諸島を巡る戦争は望まないが恐れないと明言し、日本側の挑発が続けば中国は主権と領土、海洋権益などを守り抜くため容赦せず、台湾問題など中国の核心的利益に干渉することは許されないと日本を強くけん制した。
今年、日中の間では半導体輸出規制や日本産水産物の全面輸入停止など貿易摩擦が拡大したが、安全保障面で中国軍の幹部が戦争に具体的に言及するのは異例だ。しかし、中国が本当に台湾侵攻と同時進行で尖閣奪取に出る可能性はあるのか。今日、中国軍に台湾侵攻を円滑に実行できる段階ではないとの見方が専門家の間では有力で、今回の中将による発言についても様々な意見があるかもしれない。だが、中国の核心的利益という文脈から判断すれば、その可能性は十分にあると言えよう。
核心的利益とは、簡単に説明すれば中国が絶対に譲ることのできない利益で、具体的には新疆ウイグル、チベット、南シナ海、香港、台湾、そして尖閣がこれに当たる。そして、中国共産党は建国以来、核心的利益を着実に自らの支配下に置くことに成功している。イスラム教徒が多い新疆ウイグル自治区では、長年イスラム教徒による反発やデモが発生してきたが、中国当局はウイグル族への弾圧や監視を徹底し、今でも数百万とも言われるウイグル人が強制労働を強いられている。新疆ウイグル自治区では反政府的な動きは鎮圧され、ウイグルの中国化は完結しているような状況だ。
それは、チベット自治区でも同じで、現地の学校ではチベット語ではなく中国語の教育が徹底されるなど、チベットの伝統や文化を配慮しない中国化が進んでいる。そして、南シナ海では領有権を争うとベトナムとフィリピンとの間で紛争が続いているが、人工島や軍事滑走路の建設、行政区の設置など中国による実効支配の既成事実化が進み、香港では国家安全維持法の施行、民主派の政治的排除などが拡大し、香港の中国化も進んでいる。
要は、今日の習政権の解釈からすれば、自らが位置づける核心的利益の中で、新疆ウイグル、チベット、南シナ海、香港については既に解決済み、もしくはこのままいけば解決という状況で、残りは台湾と尖閣なのである。そして、今日の習政権は香港で成功を成し遂げたという勢いで、今後は台湾だという強い意識がある。だが、仮に台湾本島のみを目的とした軍事侵攻に出た場合、中国を警戒する日本や米国が尖閣諸島を保護するべく、尖閣周辺で防衛行動を強化することが考えられる。そうすれば、事実上中国の核心的利益である尖閣諸島を支配下に置くことは難しくなる。
中国もそのシナリオは既に承知済みかもしれないが、台湾と尖閣の双方を支配下に置き、中国の描く核心的利益の完結のためには、台湾侵攻と同時に尖閣奪取に出るしか方法はないだろう。今回の中将の発言をどこまで真剣に考えるかは人それぞれかもしれない。しかし、核心的利益という文脈から考えれば、その可能性は極めて高いと言わざるを得ない。