狂犬病ウイルスが「脳」に到達するまでに
ーー「狂犬病」の発症を防ぐ「暴露後ワクチン」とはどんなものなのですか?
「狂犬病のウイルスは、噛まれた場所から脳にたどり着くまで時間がかかるため、『暴露後ワクチン』を計6回接種することで発症前に免疫を付けてしまおう、というものです。実際の接種方法については、暴露”前”のワクチン接種の有無、咬傷の状況などにより異なりますので、専門の医師の判断になります」
ーー「狂犬病予防接種」を受けていない犬が12人を噛んだ今回の咬傷事故の場合、どんな治療が考えられますか?
「今回は非常にレアケースだと思います。狂犬病予防注射を受けていない犬が一度に12人も噛んだということで、狂犬病である可能性を0.00000001%でも視野に入れて暴露後接種を行うか、日本には狂犬病はいないものと考えて、怪我の治療(破傷風、細菌感染症などの治療も)のみとするか……現場の医師と保健所の判断になると思います」
ーー日本では「暴露後ワクチン」を接種できる病院も限られているそうですね。
「海外では免疫グロブリン療法というものもありますが、この薬は日本では入手できません。WHOによると、免疫グロブリンの投与ができない場合であっても、暴露後すぐに傷口を徹底して洗浄し、ワクチン接種を完了させることで95%以上の防御効果が得られるとされています。狂犬病発生国において、実際に免疫グロブリンの治療を受けているのは1~10%と推定されています。
ちなみに、海外で動物に噛まれ、帰国後に治療を受ける場合、厚労省は『咬んだ動物の特定ができ、咬まれてから2週間以上その動物が狂犬病の症状を示さない場合には、咬まれた時に狂犬病に感染した可能性を否定できるので、暴露後ワクチンの連続接種を中止できる』としています」
「暴露後ワクチン」は「発症」までの時間稼ぎ
ーー海外渡航に備え、渡瀬さんは人間用の「狂犬病予防接種」を受けているそうですね。
「アメリカのような先進国でも狂犬病による死者数は増えています。犬だけでなく、知らない間に家に侵入したコウモリに噛まれたり引っ掛かれたりして、本人が気づかないまま狂犬病に感染してしまうこともあるそうです。狂犬病は発症前に暴露後ワクチンを接種すれば発症を防げるとされていますが、一方で、ひとたび発症すれば命が助かる可能性はゼロです。また、海外では治療が受けられる病院にすぐ行けるとは限りません。言葉の壁もあります。
事前にワクチンを打っておけば、動物に咬まれた後、病院に行くまでの時間的猶予ができます。暴露前ワクチンを打っていても暴露後ワクチンは必要になるのですが、発症してしまうと死ぬしかないので、事前にワクチンを打っておくことにより少しでも安心感が生まれます」
ーー人間用の予防接種を受けた際の副反応は…?
「副反応は特になかったです。3回接種が必要ですが、いずれもインフルエンザのワクチン程度でした」